講演会(8月4日)
就学の問題について
香川県立聾学校 教頭 小西 英夫 先生
(現 香川丸亀養護学校 校長)
1.はじめに
現在は聾学校に籍を置いておりますが、昭和39年に広島から四国にまいりまして、
それ以来ずっと30数年間、知的障害の子供たちとともに教員生活を続けてきました。
このキャンプは、昭和50年に香川県で初めて国立身体障害者リハビリテーションセ
ンター学院の聴能言語専門職員養成過程を卒業されて帰ってこられた笠井先生(香川
県身体障害者総合リハビリテーションセンター勤務)といろいろと付き合う中で、こ
とばの障害を持つ子供のキャンプをやってみようという話しになり、第1回の粟島キ
ャンプから昨年までの20回を主に彼と二人三脚でこしらえてきたものです。もちろん
多くの人たちの支援援助がありました。そういう中で非常に私なりに感じるものがた
くさんありました。保護者の方や子供自身や兄弟たちから本当に多くのことを気づか
され、そのことを次のキャンプや日ごろの実践に生かすようにしてきました。このキ
ャンプは、つまり、いろんな事の集大成されたものなんです。
20年もキャンプをやっておりますと、かつてこのキャンプにボランティアとして参
加していた人たちが養護学校なり障害児学級の先生として採用されて、今度はスタッ
フとして参加するというようなことが起こってまいります。私の中には、その若い力
をこのキャンプに注いだ方が、より皆さん方にマッチするのではなかろうかなという
思いがあります。どこの世界もそうですが、世代交代というものをこのキャンプでも
やっていく時期にきたのだと考えています。
さてそろそろ本題に入ります。
2.障害児教育のながれ
香川県における障害児教育の歴史は、盲・聾学校を除くと比較的浅いのです。私が
四国に来た昭和39年ごろから、ようやく福祉施設や養護学校などが建設されはじめた
ようなわけです。教育の場としては、障害児学級と障害児学校があります。障害児学
級はさておき、障害児学校は、県下に国立を含めて9校あります。盲学校(視覚障害
)、聾学校(聴覚障害)、高松養護学校(肢体不自由)、善通寺養護学校(病虚弱)
の4校と、知的障害児を対象とした養護学校が5校の計9校です。このうちの知的障
害児対象の養護学校の5校すべてが、建設に際して地域の人たちからの反対運動をい
ただきました。
例えば、ある養護学校では、ここの道を歩いたらいけません、ほかの道を歩いて下
さいという申し入れがありました。またほかの養護学校では、土地の値段が下がる、
あるいは風紀が乱れる等々の理由で、市町への反対の陳情がその地元の自治会名で出
されました。ですから、そこに勤める職員というのは、それなりの気を遣って地元に
対応していったわけです。
そういった風潮、つまりいわれなき差別というものは、残念ながら今でもあります
。恐らくお父さんお母さん自身も日々お感じになっておられることでしょう。福祉の
心というのは、選挙などいろいろなところで看板にはなっていても、やはり人間の内
面的なものはなかなか変わるものではありません。そういう差別という問題は、実は
自分の身近な問題になってようやく理解できるものなのです。わが子に、障害児を持
ってはじめて、そういう苦しみとか差別というものを身にしみて感じるわけなんです
。例えば校外学習ということで私たちが子供たちを町へ連れて出ますと、道行く人た
ちから変な目つきで見られます。叱られることも度々ありました。言い争いになった
こともあります。そのぐらい、まだまだ福祉の心というのは進んでいっていないのです。
皆さんはこれから就学という問題に突き当たるだろうと思います。地元の学校に行
こうか、養護学校に行けばレッテルを貼られることになるし辛いといったところを今
日はお話しできればと思っております。
3.就学先を決めるということ
結論から言えば、就学というのは、どこの学校へ行かれても基本的にはかわりませ
ん。普通学校でも、障害児学級でも、障害児学校でも、することはそんなに変わりま
せん。ただ、そこでどんな先生に出会うかが、障害を持つ子供にとっては大事なので
す。その第1歩として、普通学校・障害児学級・障害児学校のそれぞれを何回も見学
に行って下さい。勉強をしている場面・行事(文化祭や運動会など)をしている場面
など、いろいろな機会をつかまえてその学校を見ていただけたらと思います。1回だ
け見て、ここの学校が気に入ったというのが一番ダメです。一目惚れはいけません。
「また来たんか」と言われるぐらい、何回も見に行って下さい。最近は就学前の健康
診断が少し早くなって、11月にはもう実施されますから、学校見学は8月ぐらいから
取りかかった方がよいでしょう。そして、うちの子にはどういうところが合うか合わ
ないか、それをしっかり見てやって下さい。
そのうち就学指導委員会というところから、どうされますかという問い合わせが入
ります。その場合、障害児学校の場合は、できましたら1月の始めぐらいには、障害
児学校に行く行かないというのを連絡していただけると大変助かります。と申します
のは、2月ぐらいから、来年度の教育内容についての話し合いをしますので、いきな
り3月の末に入れて下さいと言われますと、こちらも非常に慌てるんです。そういう
わけで、できましたら遅くても1月ぐらいまでにどこへ行きたいという親御さんの希
望をはっきり伝えていただけるとありがたいなと思います。
それともう一つ。就学を決めるのは就学指導委員会ですが、香川県の場合は比較的
保護者の希望を聞いてくれます。どうしても障害児学級にやりたい、地元の普通学校
にやりたいということを強く言われれば、希望は通ります。ただし、普通学校や障害
児学級に行かれる場合は、イジメの対象になるということを覚悟して下さい。それか
ら、40分間じっと座っておれないといけない。給食指導がありますから、食事をする
ときに手がかかるようではいけない。それから、体育の授業などで着替えがあります
。着替えが自分でできなければいけない。つまり、最低限基本的生活習慣は身につけ
ておく必要があります。そうでないと、悲しい毎日になります。子供たちにイジメら
れ、先生にも嫌われます。
4.兄弟姉妹のこと
何故、同じ人間と生まれて障害児学校に通わなければいけないのかということは、
皆さん方にとって非常に重大な問題だろうと思います。この問題は家族全員の問題で
すが、今日は兄弟のことについてお話したいと思っています。就学というのは障害を
持つ子供にとっても大事な問題ですが、兄弟のことも考えた上でこの問題を考えてい
かなければならないと私は考えています。障害を持つ子供が同じ学校にいくことは、
兄弟にもいろいろな影響を及ぼします。ご両親が兄弟に「(障害を持つ子供を)一緒
の学校に行かせてもいい?」と聞けば、兄弟は「いいよ、一緒に行くよ」と答えてく
れるだろうと思います。ご両親はそのやさしさに感激し、またああよかったと安堵さ
れるでしょう。しかし兄弟は、学校生活の中でいろいろな辛い悔しい思いを経験して
いくことになります。
ところで、障害を持つ子供さんがもし一人っ子の場合は、申し訳ありませんが、次
の子を生んでいただきたい。一人っ子でなしに、2人3人の子供を作っていただきた
いというのが私の願いです。と申しますのは、このところ少子化が進んでいるわけで
すが、子供の人数が少ないと、障害を持つ子供とそうでない子供の2人の場合には、
そうでない子供が、自分の両親と相手の両親と自分たちの子供とそれから障害を持つ
子供という最低6人を抱えるようになるのです。お分かりですか。6人以上の面倒を
見なければならないのです。それはもう潰れます。絶対に潰れる話です。障害を持つ
子供とそうでない子供というのは兄弟であって兄弟ではありません。成長しておとな
になっていくと障害を持つ子供はもう相手にならない。そうすると障害を持たない子
供は一人っ子と変わらないんです。障害を持たない子供がもうひとりいることで初め
て兄弟として成り立つのです。ですから2人以上はこしらえてほしい、というのが私
の今の思いなのです。
その上で障害を持つ子供を、あるいはそうでない兄弟をどう育てていくかというの
が、改めてご両親の問題になってくるわけです。今ここにおいでの方々もそれぞれ何
らかの専門機関に通われていると思いますが、最近は、皆さん方を支えてくれる人た
ちがずいぶんと増えたことと思います。ですから、皆さん方だけではないんです。皆
さん方のことを心配し、子供とその兄弟たちのことを心配してくれる先生方あるいは
関係者が、昔と違ってずいぶんと増えてきています。みんながその時その時に上手に
支え合えれば、自信を持った生活というのが可能になってきます。その、上手に支え
るというのが、さきほど申し上げた、どこの学校に行ってもいい、ただし、どんな先
生に出会うかが大事ですという言葉なんです。残念ながら普通学校の場合は1人2人
の先生が障害児学級を受け持ちます。ですから、いい先生が転勤していったらそれで
終わりです。障害児学校というのは、私たちと手をつないで仲間になれる先生がたく
さんいます。そうすると比較的支え合っていきやすい。そういう状況にあるんです。
ですから、私の場合、最初に勤めていた香川中部養護学校の先生から今でも相談があ
ります。香川大学附属養護学校の先生方からもありますし、香川丸亀養護学校の先生
からもあります。親御さんからも当然相談があります。そういうふうに、学校を転勤
しても私たちの仲間は、拡がることはあっても、ネットワークとしては崩れないんで
す。お互いに助け合いができる。そういう状況にあるんです。
5.地域で生きるということ
最近非常に腹が立っておりますのが、交流教育のことです。障害児学級から親学級
に行って、一緒に音楽や体育の授業を受けたり給食を食べたりする場面がありますが
、そんなことでほんとうに交流になるのかどうか、みなさんよく考えてみて下さい。
理屈というのはね、きれいに見えて格好よく聞こえるんです。“たとえ障害があっ
ても地域の中で生きていこう”というスローガンがあります。逆にお尋ねしたい。あ
なた方は地域の中で生きておられますか?私自身、地域の中で生きとるかと尋ねられ
たら、生きてないと答えるしかありません。地域の中で生きるということはどういう
ことなのか。そこに住所があったら地域の中で生きているということになるのか。例
えば、自治会活動をはじめとした周りの方との様々な関わりがあって初めて、自分は
この地域で生きているという実感が得られるのだと思うのです。私には自治会の付き
合いなどはなく、朝や夕方にひょっと会った時に挨拶をするぐらいです。しかも名前
が分からない。ですが近所の人だと思って、おはようございます、お世話になってお
りますと挨拶するわけです。そのぐらいのことでは地域に生きているとは言えないで
しょう。ですから、障害児学校へ行ったり、施設で住んだりすることだけで地域に生
きていないと考えるのは大変おかしいと思うのです。
障害を持つ子供とそうでない子供とが交流するということは、そんなに格好のいい
ものではありません。今の幼稚園とか保育所で人間関係があって友達がいると思って
いるのは皆さん方の錯覚です。4〜5歳の幼い子供が、あの子が可哀想とか言葉で言
っていても、それが20年も30年もどうして続くものですか。続かない。それは絶対あ
り得ないのです。障害を持たない子供たちが、イジメの対象として自分たちの欲求不
満のはけぐちとして彼らを必要としておるだけです。
私自身は実は養護学校なんか要らんと思っております。ただし条件があります。今
の普通学校が変わらないとまずダメです。その一つとして、学級定員が20人以下にな
ること。今の普通学校が学級定員40人です。ところが41人になったら2学級になるん
です。そうすると20人と21人になるんですね。そういうところであれば、障害を持つ
子供が1人入れるでしょう。そして、利口な先生はいらない。情緒豊かな先生に対応
していただきたいと思います。
6.おわりに
この就学の問題は、子育てのあり方や親のあり方、地域社会との関わり方など障害
を持つ子供を取り巻くすべての事柄と関わっております。親御さんも私たちも、それ
をしっかり受けとめて対応を誤らないようにしたいと思います。
そして最後にもう一つ。障害を持つ子供ではなく、その兄弟たちの先生方がほんと
うに情緒豊かで、兄弟の心の痛み・心の揺れを伝えることのできる、そういう先生で
あることをお祈りしたいと思います。障害を持つ子供については、それほど心配する
必要はありません。それよりはその兄弟たちを、さきほど申し上げましたように、情
緒豊かな先生が担任してくれるように、心からお祈りしたいと思います。
ご静聴を感謝します。ありがとうございました。
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