■ 保健所機能の現状分析
Copyright (C) 福永一郎 1994
保健所機能の現状分析
−−−− 保健所機能の現状分析 −−−−
これだけリストラの嵐が吹き荒れると,もうお蔵に入りそうな代物になりそうですが,
保健所機能に関する私見を述べています。
なお,本文の要旨の一部については,第39回四国公衆衛生学会シンポジウム
(平成6年2月:高知市)において指定発言を行ったものです。
どうぞご参照ください。
【注意】
未発表原稿につき
○ 転載は一切禁止します
○ 記事,論文等への引用は,引用元を明示し,著者あて連絡ください(事後可)。
なお,引用された掲載記事,論文のコピーを,当方まで一部お送りください。
香川県丸亀保健所 福永一郎
PDF01076@niftyserve.or.jp
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保健所機能の現状分析と,その展望に関する私見
JINNTA
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この文章は,1994年夏,とあるところに参考資料として提出したものですが,
まあ,ほとんど役には立たなかったという代物です。何かの参考にと,一部改
変してアップします。なお,転載は一切禁止します。引用は必ず事前に連絡し
てください。
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(本文の要旨の一部については,第39回四国公衆衛生学会シンポジウム(平
成6年2月:高知市)において指定発言を行った。)
1.はじめに
地域における保健活動の推進には,地域を活性化し,地域の中をつないで,連
携を取り合うことが重要である。
保健所機能を考える上では,単なるサービス供給面のみからではなく,地方
自治制度の中でとらえてゆく必要があると思われる。都道府県保健所の位置づ
けを考える上では,保健所法による機能以外に,地方自治法による都道府県の
広域行政機能(市町村への指導機能,調整機能,補完機能等)という点をもっ
と明確にしてゆく必要があると考えている。
なお,これらのことは,従来,保健所(都道府県)と市町村の関係といった
視点で語られることが多いが,本来は,地域の住民(生活者の視点)にとっ
て,もっとも有益と考えられる選択を,各自治体相互の連携をもって行うこと
が本道ではないかと考え,その際,保健所は,広域的な健康水準の確保に対し
て,包括的な責任を負う立場であると思う。これらを鑑みながら,以下に現状
分析と私見を述べたいと思う。
2.「保健医療計画と地域保健活動に関する調査*」にみる四国の保健所機能
の現状と課題
平成2年12月に,四国地方の216市町村,39保健所を対象に調査が行われてお
り,JINNTAは調査(計画,実施,解析)に中心的に参加している。回収
率は各々73.2%,92.3%で,○県は全市町村及び全保健所から回答が得られてい
る。主として保健(医療)計画(医療法,老人保健法等に基づくか否かは無関
係)に関連して市町村と保健所の機能について調べた調査であるが,その概要
を説明する。
まず,「地域保健活動上の課題」としては,「ニ−ズの的確な把握」は,
市町村,保健所ともに3割前後はすでに実施していたが,「情報システムの確
立」は多くが今後の課題とし,市町村では不可能とする意見も15%あった。「
地域特性に応じた効果的保健医療供給システムの確立」は,市町村,保健所と
も1割位はすでに実施としたが,15%前後は不可能と考えていた。「新たな保
健医療機構を構築」は,実施率は低く,不可能とする回答も多く,不要論もあ
る。保健,医療,福祉等の総合的連係確立のための「新しい概念の導入(縦割
り行政の是正など)」については,必要性の認識は高いが,不可能とするとこ
ろも15%前後にみられた。「コミュニティづくり」については,実施率が高
く,保健所では民間活力の導入も高かった。これらのことから,地域ぐるみの
保健活動を行う上の課題についての意識は高いことが伺われるが,実施につい
ては阻害要因が大きな項目もあるようである。
PS
* の詳細について知りたい人は,以下の文献を参照してください。
實成文彦,福永一郎,守屋圀昭,神原 勤.保健医療計画と地域保健活動−特
に保健所・市町村段階における地域保健医療計画を中心として−.四国公衛誌
.36.13-31.1991
「地域保健活動上の市町村の役割」としては,「市町村の今後の対人保健活
動」では,市町村側は「市町村主体論」が3割弱(○県5.6%),「役割分担論
」が約7割(○県72.1%)で,保健所側では,「市町村主体論」が4割弱(○県
42.9%)と市町村よりは増加し,「役割分担論」が減少した。「市町村におけ
る保健(医療)計画の推進」に関しては,市町村側では「市町村主体論」が約
5割(○県48.8%)で,「保健所舵取り論」は全体で3割強(○県34.9%)であ
り,「保健所以外(医師会等)に任せる」および「保健所段階での計画の中で
」も少数みられた。保健所側では,「市町村主体論」は減少して3割弱(○県
は42.9%で市町と大差なし)となり,「保健所舵取り論」が64%(○県42.9%
)と増加した。「保健所段階の保健(医療)計画への市町村の参加」について
は,市町村側では,「立案・実施・評価のすべてに参加」の市町村が6割強(
○県60.5%)で,次いで「役割分担しての活動への参加」が34%’(○県30.2
%)となり,「立案のみ,もしくは評価のみへの参加」はごく僅かであった。
保健所側では,「すべてに参加」が8割強(○県100%)と多かった。
「地域保健活動上の保健所の役割」では,「保健所の今後の対人保健サービ
ス」は,「選択重点主義」が多く,市町村側では5割強(○県55.8%),保健
所側では7割強(○県85.7%)である一方,「多方面積極論」も市町村側では3
-4割(○県は18.6%と少ない)あった。「保健所のあり方」として,「情報セ
ンターの役割」,「地域ぐるみの保健活動の推進役」,「保健(医療)計画の
推進」に関しては,市町村では3項目とも7割台が肯定(○県7〜8割台)し,積
極的な取り組みを期待しており,否定的意見は3項目とも2割前後にとどまって
いた。保健所では,3項目を肯定する意見がほとんど(○県では6保健所が肯
定意見)で,「情報センターの役割」では19%(○県0%),「地域ぐるみの
保健活動」では36%(○県28.6%),「計画の推進」では25%(○県0%)
が,すでに積極的に行っている。これらの結果は,市町村からの保健所へのニ
ーズの高さを示し,保健所側もその役割を認識しており,保健所の将来展望と
して,地域保健医療の中核センターという方向性を示しているといえる。
「関係者との連携」では,まず市町村では,保健所およびホームヘルパーと
最も連携がとれており,次いで医療機関,地区組織で,産業保健関係者とはほ
とんど連携がとれていなかった。保健所では市町村と最も連携がとれていると
し,以下,医師会および医療機関,地区組織,福祉事務所で,学校保健関係者
との連携は低い。産業保健関係者との連携はいずれも低かった。ホームヘルパ
ー,学校保健関係者との連携は市町村の方が保健所より高く,医師会,福祉事
務所との連携は逆の傾向があった。
「健康づくり推進協議会,保健所運営協議会等の「包括的な保健活動組織
」の状況」では,市町村における包括的な保健活動組織は7割近くに組織さ
れ,大部分は健康づくり推進協議会であった。昭和53年以後57年までの5年間
で半数近くが組織されている。協議会と各構成員の出身母体(組織・団体)と
の連携は十分に取れているとはいえない。年1回の開催が約半数であるが,3回
以上も2割強にみられる。協議および活動内容は「行政施策の審議」や「健康
まつり等の催し」が多いが,「保健(医療)計画」に関連した項目は多くはな
い。今後行いたいこととしては,「行政施策の審議」等は減少し,「計画」関
連,「地区診断」や「地域から出された問題に関する協議」が上昇してきてい
る。保健所段階では,保健所運営協議会については年1回開催が大部分で,2回
のところも2割にあった。各構成員の出身母体(組織・団体)とは一応の連携
が取れている。協議および活動内容「施策の審議」や「諮問事項の審議」が大
部分で,「保健(医療)計画」関連は僅かであった。今後行いたいこととし
て,「計画」関連,「地域から出された問題に関する協議」が増加した。一
方,保健所段階で「地域保健医療活動ないしは計画の推進目的でつくられた包
括的な組織(地域保健医療協議会等)」は,平成2年12月現在で8保健所に存在
し,昭和57年以前に4保健所でできており,他は,61年以降, 特に平成2年に2
保健所で組織されている。各構成員の出身母体(組織・団体)とはよく連携が
取れているとするところが半数で,年3回以上の開催が25%であって,保健所
運営協議会とは趣を異にしていた。協議および活動内容は「保健(医療)計画
の立案」が50%で最も多く,次いで,「地区診断・地区調査」等および「施策
の審議」であった。今後行いたいこととしては,「計画実施のための役割分担
」が62.5%と多く,特徴的である。
「地区組織活動」では,「地区組織活動の育成・教育に力を入れている」
は市町村で4割,保健所で5割で,「力を入れていない」市町村も2割みられ
た。「地区組織活動や住民パワ−に対する期待と見通し」は,市町村の45.5
%,保健所の66.7%は「おおいに期待し実際にも可能」としているが,可能性
に関しては懐疑的な面もみられ,市町村では31.8%が「不可能」としている。
地域における保健活動の推進には,地域を活性化し,地域の中をつないで,
連携を取り合うことが重要である。市町村・保健所段階の,地域保健活動推進
過程における現状と課題について調査検討した結果,関係者間の連携・住民活
動・場の活性化など,阻害要因はあるものの,計画的・科学的・包括的な地域
保健活動の推進が行われつつある機運であることが示された。また,市町村・
保健所段階の,地域保健活動上の課題と市町村・保健所における保健活動の展
望について調査検討した結果,地域ぐるみの保健活動の推進には,地域をつな
ぐシステムが必要であり,肯定的意見が大部分を占めた。また,地域保健医療
の中核としての保健所に対する期待感がますます高くなっていることがうかが
われた。
同様の調査がこの4年前(昭和60年)に行われており(参考資料参照),こ
のときに比して,市町から保健所へは2次的な支援を求める要望が強くなって
おり,また,保健所に対する期待感も増大している。
なお,この調査の四国全体と○県との比較から,○県では,四国の中でも特
に保健所と市町の機能分担が求められており,市町側からは,直接的な業務の
支援だけでなく,むしろ情報センター機能,保健計画への指導性,保健活動へ
の企画立案面での支援等の,2次的な市町支援機能をより強く求められている
ことがわかり,十分な対応が必要と考える。
3.今後の保健所行政と市町村保健行政のあり方について(窓口と奥行き機能
)
(第39回四国公衆衛生学会シンポジウム指定発言要旨)
地域保健活動とは,住民に対して行われるものであり,従って,住民からみ
て,わかりやすく,有用なものでなければならない。従って,市町と保健所の
関係は,このことに留意して考える必要がある。
現状では,大部分の市町村においては,単独で,あるいは保健所の委託事業
や,健診機関等を利用しながら,精度の不安は残るが,事業としてはある程度
まではなんとか行えているというのが現状である。地方自治法によれば,身近
なサービスはおおむね固有事務とされ,基礎自治体である市町村が処理するの
が適当であり,ベーシックな保健衛生事務については,統一的にこの方向で進
むものと考えられる。この中で,地域特性を十分に生かして,市町村の主体性
を発揮しながら,保健事業が行われてゆくということが,今後望まれてゆく姿
である。
住民にとっては窓口はわかりやすい方がよいし,もっとはっきりいえばまず
一カ所(市町窓口)でとりあえず対応してもらって,そこから必要に応じて次
の段階(保健所)へという方がわかりやすいはずである。住民にとっては,要
するに連続的で一体的なサービスが確保されていることが重要なのである。た
だし,このことは,窓口事務や,プライマリな事業主体のことを示しており,
地域の保健対策に対して,都道府県が関与すべきではないということを示して
いるのではない。
こういう形態をとる場合重要なことは,奥行きを十分に確保しておくことで
あり,広がりをもたせることが必要である。この奥行きを担うのが保健所であ
り,住民からみれば,いわば市町の後方にどっしりとひかえているという関係
になる。
この奥行きのあり方は,母子保健とか精神保健とかいった領域によっても異
なるし,各市町の実情に応じて,各市町と保健所との間で異なるわけで,この
関係をどうするかが市町と保健所の役割分担ということになるのである。ここ
ではじめて自治体間の関係が出てくるのだが,この奥行きの支援の仕方が今後
の保健所機能ということになる。
なお,「母子は市町だから保健所は関係ない」とか「精神は保健所だから市
町は関係ない」といった考え方は,複雑でわかりにくい窓口と,非常にせまい
守備範囲しかとれないことになる。ここにいう「分かりやすい窓口」,そして
「十分な奥行きや広がり」といったものが確保できないわけで,間違っている
ことは容易にわかるはずである。
4.保健所の機能強化
具体的な対案としては,以下のようなことが考えられる。
○ 各事業の窓口は個々にいずれかの自治体に一本化されるが,そのサービス
自体は地域で一体として供給する体制をとるため,個々の事業について市町村
と保健所相互で役割分担を図ることが必要である。これらは,住民,すなわち
生活者の視点でみれば当然要求されるべきことであり,巷間漏れ聞く「母子は
全部市町村がしますが,精神は保健所がするのでいっさい市町村はタッチしま
せん」などというような,業務ごとに完全に分割してしまう方法は,地域の健
康水準の確保という点からも,公衆衛生の精神を踏みにじる本末転倒な仕業で
あることは言うまでもない。
母子保健事業に関しての例をあげれば,窓口や実施主体は市町村であるが,
たとえば,精神発達や耳,眼についてはかなり高次な専門性をもつため,保健
所も関与が必要である,といった風に,専門性や,市町村事業の科学性の確保
という視点からも,市町村機能に保健所機能が重層的に作用することが,地域
の健康水準の確保に必要なことであり,また,これがまさに都道府県の機能と
いえる。
○ 専門性の問題および市町村で取り組みが難しい仕事
これは各市町村の実力によって異なるが,共通していえることは,調査理
論,疫学的な分析,情報機能,精度管理,また,監視機能,許認可などの行政
事務については,従来のノウハウが乏しく,内容的に基礎自治体の事務にはそ
ぐわない面もあると思われ,かなり保健所が関与すべき領域であると考えられ
る。
これらは専門的な高次機能,あるいは広域機能と考えられるが,問題点とし
ては,保健所自身がこれを行える実力をつけてゆく必要があるということと,
管内市町村にこれらの機能の重要性を理解してもらう必要があるということで
ある。「市町村の求めに応じて」支援を行うにあたって,これらの理解が得ら
れなければ「市町村の求め」自体が出てこない可能性がある。
これらの機能を発揮する糸口としては,「市町村の求めに応じて」対応する
以外に,各保健事業報告が保健所を経由する際に,各報告から管内の分析を行
い,意見を述べるというようなことからまず始めることになろう。残念なが
ら,現状では,多くの市町村では,情報管理・精度管理等の専門的な機能では
なく,委託の受け具合等によって保健所の評価がされてしまう土壌が存在して
いることは否定できず,個々の事業の現業面といった視点のみでとらえられが
ちである。ただし,高次な機能についても,市町村事業実施にあたっていろい
ろな問題点があり,非公式に相談を受けることあるなどから,潜在的なニーズ
が存在しているようにも思う。
○ 情報機能
保健所の情報機能とは,以下のようなものであると考える。
* 管内の情勢の把握と分析をおこなうこと
このためには疫学統計や事例検討を行い,他地域や県・全国との比較を行う
必要がある。
* 通達類や全国情報を,地域特性に応じて咀嚼して市町村に提供すること
* 他機関の情報を収集して,その動向や利用方法を示すこと
* 地域保健に関する新しい知見や,研修内容等を,伝達講習すること
○ 企画調整機能
保健所の企画調整機能とは,以下のようなものであると考える。
* 管内市町村の保健事業について,市町村の実情に応じた参考プラン等を提
示すること
* 管内市町村の範囲を越える事業について,企画実施すること
* 管内市町村にまたがる,または広域性のある事業について,調整を行うこ
と
* 管内市町村と他機関との連携の仲介をとるなどの,コーディネーションを
行うこと
* 管内市町村の事業の状況を比較し,当該市町村の位置等を示し,必要な助
言を行うこ と
○ 市町村に対する教育研修機能
市町村職員の保健行政の研修機会は少なく,そのため専門能力や情報が不十
分となりがちである。そのため,保健所に教育研修機能を付与し,情報伝達を
含めた教育研修を行えるようにする必要がある。
○ これらのことが効果的に機能するためには,地方行政機構内で,保健衛生
企画官庁としての保健所の確立と,機能に応じた柔軟な体勢を形づくる必要が
あると思われる。
以下にこれらの機能をピックアップして概説する。
5.保健・医療・福祉・教育のネットワーク化と保健所機能
このことは高齢者対策では喫緊の課題であるが,各分野で独立分断して行わ
れるケースもあり,また,各分野相互での情報不足は甚だしいものがある。ま
た,たとえば在宅医療,在宅看護,在宅介護,訪問指導などといったように,
うまく連携がとられなければ,目的とたがって競合してしまう部分も多いよう
に見受けられる。そのうえ,保健,医療,福祉の各分野に存在する「習慣」の
違いや,「行動パターン」の違いといったものが拍車をかけているようであ
る。いずれにしてもまず相互理解から始めなければならない。その意味では,
各分野固有の専門性を尊重しながら,全体的に方向付けを行うケア・コーディ
ネーション的な役割をどこかが持たねばならないであろう。地域の特性に応じ
てその役割の担い手は異なるであろうが,社会的な視点を生かせるという点で
は保健分野にノウハウの蓄積があり,広域調整という点でも,保健所のひとつ
の重要な機能になって行けるものであると思われる。これは高齢者対策だけで
はなく,精神,母子,難病などいずれの分野でも必要である。
保健・医療・福祉の連携とか一体化ということばがよく語られているが,ま
ず「連携」と「一体化」の違いについて認識する必要がある。連携とは,本来
連続した,あるいは関連している関係機関が,その自主性を保ちながら,その
利用主体である住民が利用しやすいシステムを作ることであり,一体化とは範
疇の異なる概念である。一体化は,サービスを効率的に供給するには良い点が
あるものの,実施にはそれが行えるだけの基盤が必要であるが,特に医療分野
と保健・福祉分野の一体化は公営医療の色彩が強くなる。歴史的背景にも関係
するが,公権力の行使である福祉措置や,公営または準公営サービスである各
種保健・福祉サービスと,訪問看護,在宅医療等の,本来は自由度の高い医療
サービス(これらの中心となる国保医療機関は,医療制度上は単なる一つの医
療機関でしかないため,公的医療であるが公営医療ではないことに注意する)
が同居することより,医療需要についてもかなり公営医療的な要素が入り込ま
ざるを得なくなるので,医療需給等も鑑みて,医療側の自由度の少ない自治体
等以外では実施困難であると思われる。「一体化」はやや公営的な色彩の強い
形態,「連携」は民間活用主義的な色彩の濃い形態といえよう。従って「連携
」とは,関係機関の独立性と自主性を確保しながら,住民に対して包括的保健
医療福祉を確保し,一体的なサービスを供給するための手段であるといえる。
高齢者問題における保健・医療・福祉の連携については,すでに多くが語ら
れているので,ここでは割愛し,意外と語られていない母子保健児童福祉分野
での保健・医療・福祉及び教育各分野の連携について,聴覚言語発達障害児対
策の例をあげて考察することとする。
聴覚言語発達障害は,母子保健の中ではかなりの高次専門性を有し,今後保
健所が扱って行くべき性格を有するものであるが,聴覚言語発達障害の発見機
会(入り口)は,乳幼児健診などの市町,一部保健所(三歳児健診など)の一
次的な母子保健事業であることが多い。ここで障害が疑われるケースの場合,
現状ではさまざまな取り扱いがなされているものと思われるが,その際,ケー
スにとっては,十分な情報が提供されており,きちんとしたケースコーディネ
ーションが行われているかどうかが問題となる。聴覚言語障害を扱うには,身
体的および精神的発達の両面からのアプローチが必要であり,そのため,医療
機関,難聴を扱う医療,療育及び教育機関,児童相談所,言語療育機関等との
連携を必要とし,また,生活の場である保育・教育機関である保育所や幼稚園
などとの連携も必要である。従って,ケースコーディネーションを行うには,
少なくとも,これらのつなぐべき複数の関係機関を把握し,さらにケース側の
選択の自由度も確保されていなければならない。聴覚言語障害を疑ってから,
どのようなコースで身体,精神発達検索を行い,どこへつないで療育をして,
生活の場でどのように扱ってもらい,家族支援をどう行うか,これらのプラン
ニングとサポート,フォローの役割がケースコーディネーションの主なもので
あるが,このつなぎ役をつとめるには,関係各機関の把握に始まって,最終的
には有機的な連携をとって行く方向が望まれる。従って,窓口となる機関から
は「保健所へつなげばあとはうまくいく」,つなぎ先からは「保健所でコーデ
ィネートしてくれれば安心だ」という関係をつくり,住民の立場でみれば,「
各機関へ自分でつなぐ」といったことはしなくとも,「保健所」という一本化
した窓口で対応可能な状態となるわけである。
つまるところ,保健・医療・福祉および教育の連携に関する保健所機能と
は,保健所が「要」となって,これらの機関をつないで,住民に対して一体的
なサービスを供給できるようなシステムを用意することである。
6.研修機能
研修機能とは,おおむね専門職またはそれに準ずる対象(業態,地区組織,
ボランティア養成を含む)を相手とした専門的な知識等の付与を目的とするも
のであるが,現状の保健所においては,対人保健分野では,管内保健婦研究会
として市町等の保健婦の研修機会を確保しているほか,食生活改善推進協議会
の研修会,栄養教室(食生活改善推進員の養成),思春期保健関係の研修会な
ど多数の研修機会が用意されている。対物保健関係では,食品衛生関係等を始
め,多くの業者団体,住民団体向け研修が用意されている。このように,従来
から保健所は多くの研修を行ってきているのであるが,これらが各論的であ
り,包括的系統的なものとなっていないのが現状である。
今後求められる研修機能には,これらを有機的に包括化するほか,現在のも
のに加えて,市町職員などに対する公衆衛生行政専門研修が求められており,
特に専門技術職だけではなく事務レベルでの研修が必要と思われる。
7.情報機能
保健所の情報機能とは,一言で言えば,@ 国,県から流れてくる情報の咀
嚼 A 管内市町の情報の集約 B その他非定型な情報の把握分析 であ
り,地域特性に合わせて解釈して,保健所及び管内市町ならびに保健・医療・
福祉に関係する機関に対して,有効な施策立案のために情報を修飾,コメント
付きで提供する機能である。情報機能といえば,たとえば老人保健法基本健診
個人データーの管理などの,コンピューターを用いたデーターベース機能と考
えがちであるが,これは副次的なものであり,まずは既存の情報を解釈,分析
(統計的なものも非統計的なものもある)する機能を持たせることが必要であ
る。
この結果,市町からは次のようなメリットがあげられる。
@ わからないことがあっても,保健所にきけばわかる。
A 市町の有効な施策立案のための基礎情報を提供してもらえたり,施策アド
バイスをもらうことができる。また,管内での市町格差についての情報も得ら
れる。
B 国や県の通達文書を,地域の実情にあわせたコメント付きで流してくれ
る。
C 国や県本庁とのパイプになる。
これらは,いわゆる今後の市町支援機能の大きなポイントになることは間違
いない。
8.マンパワーの確保
多くの保健事業の実施主体が市町村段階へ移ってゆくことになるが,市町村
においては,公衆衛生スタッフはきわめて不十分といわざるを得ない。専門職
の職種も人数も不足している上,定数条例等の関係から,定員内職員としての
確保自体が難しい場合も多いと思われる。
マンパワーについては,専門的職種については地域の社会資源としての保健
所の存在は大きいものであるといえる。ただし,これについては,「単なる」
技術提供ではなく,公衆衛生という視点からアプローチできるという意味での
専門性であり,「単なる」技術提供であれば,民間機関の利用で事足れるとい
わざるを得ないし,またこれらの利用も進めることも必要である。すなわち保
健所からの人の派遣は,単なる技術提供者ではなく,ノウハウの派遣である。
たとえば,健診での受付,採血や,診察介助を行うために,わざわざ保健婦
を配置する必要性は薄い。もっと他の専門性をいかせる方法を考えるべきであ
る。必要とされる業務内容等を十分吟味し,公衆衛生専門家としてのマンパワ
ーの提供は保健所で確保,サービス内容によっては民間機関の利用,臨床的色
彩の濃い事業は医療機関の利用や医療機関からの派遣依頼を考慮,定型的また
はルーチンな基礎的業務については非常勤職員等の利用など,適材適所に確保
することが必要である。
保健所機能としては,市町村のマンパワーについては,特に公衆衛生行政ス
タッフの観点から支援を行うことが重要で,特に,保健所医師については健康
政策立案能力等を含め,その色彩が強いと思われるし,潜在的なニーズも高
く,公衆衛生行政学的な能力が必要である。
9.職員研修
以上に述べたこれらの機能を持たせるには,情報収集・分析に必要な,集団
を観察する科学的方法である疫学的手法と,施策の意思形成および実施のため
の行政学的手法が必要となるが,現在,保健所はこの点,あまり強いとはいえ
ない。従って,今後は研修等によって対応する必要があるが,いわゆる各論で
はなく総論の研修が必要である。従って 1.疫学総論 2.保健計画論 3
.地方自治行政 4.統計学 5.財政学 などの研修が医師・保健婦・診療
放射線技師・栄養士をはじめとした技術系職種に必要となる。
これらの研修を効率的に行うとすれば,自主研修の活用,厚生省より公衆衛
生協会に委託して行われている地域健康政策研修や,自治研修所等での研修,
研究施設の疫学プログラムの利用などを考える必要がある。
10.計画的で円滑な地域保健の体系化
計画的な保健活動のためには,地域の保健活動に関わる関係者(市町村・県
行政,医師会等の専門機関,住民組織等)が合意形成を行う場が必要であり,
その合意事項に基づいて計画立案,役割分担をしての実行,評価というプロセ
スが行われることが理想である。これが定着すると,真の住民自治としての地
域保健の体系化が実現するであろう。しかしながら,現実には多くの阻害要因
があり,なかなか実現できないというのが実情で,このことは,現在は「夢物
語」である。これらの方策を進めてゆくには,まがいなりにも軌道がつくまで
の間,誰かがコーディネーター的な役割を担って,阻害要因を一つ一つ処理し
て行ったり,他機関とのコネクションをとってゆくなど,時間をかけて地道な
努力をしてゆくしかないのではないかと思われる。その際,コーディネーター
としての,保健所医師,管理的立場にある保健婦等の保健所専門技術職員の存
在がクローズアップされてくるのではないかと考えている。
11.おわりに
以上,保健所機能に関する私見を述べた。これらはごく断片的であり,すべ
てを網羅しているわけではないが,一つの意見として参考に供することができ
れば幸いである。
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