■ エイズとオンラインネットワーク

Copyright (C) 福永一郎 1996

エイズとオンラインネットワーク


 


1996年11月に,都城市エイズ講演会実行委員会でお話しした内容を

要約したものです。



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                                                              都  城  市

                                                             November 23, 1996



     エイズとオンラインネットワーク



                         FAIDS JINNTA/ 福永一郎

                 (香川県丸亀保健所医師/

                  香川医科大学人間環境医学衛生・公衆衛生)

                                                  PDF01076@niftyserve.or.jp

                                                  jinnta@kms.ac.jp

                                             Nifty-Serve FAIDS/FEDHAN STAFF



1.エイズとオンラインネットワークがどうして結びつくのか



 エイズについて関心を持ち,エイズに対して何かをしたいと思ったら,最初に「自

分が何をしたら良いのかを知る」ことと,「自分が何ができるかを知る」ことが必要

である。ここではまず,そのための基礎理論について少し述べたい。



 社会の中でエイズに対する取り組みを考えて行くには,「公衆衛生」の考え方が必

要である。この公衆衛生とは,社会防衛のことではない。公衆衛生(Public Health)

とは,健康に対して「みんなで」取り組んで行くための科学とその行動のことを言う。

以下に,この「公衆衛生」的な発想についての,いくつかのポイントを述べる。



1) みんなで考えて行くためには



 公衆衛生対策の基本として,行政関係者(対策を考える関係者)と専門家集団,そ

して地域住民の三者が,自分の出来ることをやりながら,地域社会の中で協調するこ

とが必要である。この三者の協調のためには何が必要か・・・それはコミュニケーシ

ョンのための「場」の確保と,問題の共有化である。



2) 病気の「予防」とはどんなものか



 病気の予防とは,実は,発生を防止させるためのものだけではない。病気の予防に

は,病気が発生する前に予防する一次予防,発生した病気を早期に見つけて重症化し

ないための手段を考える二次予防,病気を持ちながら社会に参加して行くための方法

を考える三次予防があり,この3つが横糸をつなぐように連携していることが必要で

ある。たとえば,エイズ対策では一次予防の一つの大きな方法としてエイズ教育があ

るが,これはエイズの治療(二次予防)や,エイズのターミナルケア(三次予防)で

の取り組みや知見が盛り込まれてはじめて生きたものとなる。この3つをじょうずに

働かせてゆくには何が必要か



・・・それは「フィードバック」を中心とした相互の有機的な結びつきである。



3) 包括化とは



 社会でエイズの問題を考えてゆくには,各領域(保健、医療、福祉、教育、労働・

・・・・・・)の包括化と連携が必要である。ここでいう連携とは、お互いの組織な

り機関なりが、その独自性を保ちながら、他と協調して一つの目的に対して役割を分

担し果たすための手法である。決して単なるお題目や呪文ではない。この包括化と連

携には何が必要か・・・それはお互いを結び付ける「場」と「コーディネーター」で

ある。



4) ニーズのサーベイ



 公衆衛生対策を考える上でのプロセスとして,SEE(評価・計測)−PLAN(

計画)−DO(実行)そしてまたSEEというサイクルがある。このうちのSEEは、

表に現れた問題だけではなく、実際にどのような潜在的な要求なり需要(ニーズ)



があるかを計測する技術が必要である。というのは,具体的な要求というのは,表面

に現れた一つの現象にすぎず,そのことだけに対応する対策とは場当たり,モグラた

たきのようなものであって,実際はその陰にどのような需要があるかを測らなければ,

トータルな対策を考えることは難しいからであり,また,このプロセスでわからなか

った需要を発見することもできるからである。特にマイノリティ対策には重要な視点

である。このニーズを発見するためにはアンテナ・・・「情報を広く集める手段」が

必要である。



 オンラインネットワークは、これらの役割・・・「問題の共有化」「予防の各段階

のつながり」「関心のある人のつながり」「アンテナ」の4つを果たすための一助と

なれる有力な手段の一つである。





2.オンラインネットワークに期待されるもの



 ここでは、オンラインネットワークのうち、商用パソコン通信を中心に考えてみた

い。

1) いろいろなメディアの比較



 以下に,情報伝達手段としての一般のマスメディア,パソコン通信,インターネッ

ト(この場合は主にはホームページ)を比べてみたい。

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      一般のマスメディア   パソコン通信     インターネット

      (新聞・テレビなど)

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情報の管理  企業         システム管理者   個人(HPなどの開設者)



情報発信   プロ         だれでも可     だれでも可



情報入手   だれでも可能     会員制       だれでも可能



情報の形態  企業内でそしゃく   個人の生の情報   個人の生の情報

       されたもの      が得られる     が得られる 

       (生情報はない)   (管理あり)    (管理なし)



情報の質   企業が担保      原則個人だがシステ 発信者で管理

                  ム管理者が担保   玉石混交



プライバ   企業の体制に依存   システム管理者が  ほぼ無法地帯

シー保護等             ある程度まで担保  自衛必要



情報の質の  主として企業内部   討論や議論     発信者の資質に

向上策    の体制に依存     により向上する       依存

       評価の有無は     内容は評価され   内容の評価は

       体制に依存      洗練されてゆく   本人には届きにくい

                 (ミニコミ・同人誌的)(ビラ的)



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情報発信形態 取材あるいは論説等  発言する勇気があれば ホームページ作成な

                                                          ど



                  容易に発信できる   一定の努力必要

                  ライブラリの利用   ネットニュースなど

                                                          ではそのまま発言す

                                                          る



双方向性   非常に少ない     ほぼ完全に確保   努力によって確保可能

       供給者→需要者が             現状はあまり高くない

       原則



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コンピュータ 不要         ワープロ+α程度   一部例外を除いて

の知識                             かなり必要



設備資源   新聞を買うお金    ワープロで可能   かなり高機能の

       テレビ、受信料など  パソコンが一般的  パソコンか専用の機械

                  昔の機械でよい   が必要



現状での   そしゃくされた    コミュニケーション  情報発信と情報取得

効果的用途  二次情報の入手    及び一次情報の入手  公定情報の電子ファ

       コンパクトな情報              イルの取得

       の取得                   情報の検索と取得



そのうち   コンパクトな情報   コミュニケーション  情報の検索と取得

最も有効な  の取得

利用形態



広がりの確保 シェアがあれば大   かなり大きな広がり  工夫が必要

       大型スーパー的    商店街的       ガレージセール的



自由度    完全に管理      一定の管理あるが   フリーマーケット

                  かなり自由      



情報の特色  ある程度公的な情報  さまざまだが     さまざまだが

                  草の根的なものに特色 公的なものは利用価

                                                          値大



発信者の   実質不可能      匿名可能       実名の原則あり

匿名性               



運営上の   企業努力       参加者の相互扶助の  開設者の個人努力

努力                体制の形成必要



評価と    質の向上の      ほぼ一定の評価あり  将来性大

将来性    必要性あり      



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 ここで重要なのは,パソコン通信,インターネットの世界は双方向通信であること

であり,先に述べた公衆衛生的な役割を果たせる可能性を与える重要なポイントにな

っている。



2) ニフティーサーブ エイズフォーラム(FAIDS)について



 エイズフォーラムは,ニフティサーブという商用パソコン通信の中にあるフォーラ

ムという,あるテーマに関心のあるひとたちや,いわゆる同好の士が集まる場所で,

300以上のフォーラムがある中の一つで,エイズに対する専門フォーラムとして位

置づけられている。また,エイズフォーラム(FAIDS)は,エイズに関する日本のサイ

トとしては嚆矢であり,1994年にインターネットホームページを開設し,世界に向け

て情報を発信している。



 エイズフォーラム(FAIDS)には,以下の6つの特徴がある。



 (1) 参加者の多様性

  ネット上では、職種などの隔てなくどのような人でも参加できる



 (2) 参加の自由度

  参加の自由度は自分で決められる

  スタンスも自分で決められる



 (3) 「草の根」性

  草の根の情報発信が可能である

  団体に所属していなくても情報の発信ができる



 (4) 平等性

  専門家も非専門家も、当事者も第三者も対等な立場で参加できる

  ネット上では、社会的地位や関係を持ち込まないのが原則



 (5) 双方向性と客観性

  レスポンスを目的とした情報発信が可能

  文字によるコミュニケーションが十分果たせる

  なされた発言は、討論によって洗練されて客観性が形成される



 (6) 匿名性

  ハンドルネームという一種の通り名での匿名による発言が可能

  エイズフォーラム(FAIDS)の場合、ハンドルでもいやという人については、

 代理アップ制度をとっている



  以上のような特徴は,特にボランティア的なスタンスで何かをするには最適のメ

ディアである。



3) エイズフォーラム(FAIDS)に期待される社会的機能



 エイズフォーラム(FAIDS)は,パソコン通信とインターネットを通じて,いわゆる

同好の士の集まりの範疇を越えて,一定の社会的役割を果たしていると考えている。

それは以下のようなことである。



(1) エイズフォーラム(FAIDS)に期待される情報収集機能

 草の根的情報を中心とした一大データーベースが構築されている(公的情報は公的

な場で入手可能なので、その補完的機能が中心)。特に、今までのルートで情報が届

かない人にとっては、貴重なメディアである。



(2) エイズフォーラム(FAIDS)に期待されるフィードバック機能



 すでに述べた「各予防段階のつながり」を形成するための,二次予防段階から一次

予防段階へのフィードバック機能を有している。



たとえば

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 HIV医療(二次予防段階)     エイズ教育(一次予防段階)

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 感染者の声、医療現場の声   →  保健・教育現場の会員へ伝え教育に生かす



 (具体例)

  草伏さんや高田医師の        学校の先生や保健所に勤める

  メッセージ             エイズフォーラム(FAIDS)会員

                    が教育の実践 に生かす

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ということがオンラインを通じて可能である。



(3) エイズフォーラム(FAIDS)に期待される包括化機能



 エイズフォーラム(FAIDS)は以下にあげるようなさまざまな領域の関係者,当事者,

一般市民が参加しており,包括化に必要な交流が可能である

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HIV感染者 NGO活動 学校教育活動 保健所活動 医療活動 事業所活動 

第三者 などなど 

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(4) エイズフォーラム(FAIDS)に期待される場機能

 (3)にあげた,エイズに関心あるいろんな人が,エイズフォーラム(FAIDS)という

同じテーブルで集え利用できる場が用意されている。意見交換はもとより,共通の課

題に対して,なんらかの意識の共有化なり,コンセンサスを形成することなりも可能

である。



3.これからのエイズとオンラインネットワーク



 現在,国際的な機関や国内のGO、NGOがつぎつぎとインターネットホームペー

ジを開設しており,情報発信と情報取得の面では,オンライン環境はかなり充実しつ

つある状況である。エイズフォーラム(FAIDS)のホームページも,かなりの参照数を

得ている。



 この一方で,パソコン通信は,従来認識されていた情報取得ツールとから,コミュ

ニケーションの場へ転換,充実してゆくことが望まれている。



 これらのオンラインネットワークの協調がエイズについて関心を持ち,エイズに対

して何かをしたいという人たちのために十分な役割を果たして行くものと思われる。

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