■ 三歳児聴覚健診(三歳児のきこえとことばの健診)

Copyright (C) 福永一郎 1996

三歳児聴覚健診(三歳児のきこえとことばの健診)


香川県での5年間の実践をもとに,現在香川県で行われている香川県方式

についてのQ&Aをまとめたものです。

なにかの参考になると思います。どうぞご参照ください。



【注意】



 文中の「ヒアリングチェッカによる検査」は平成8年から廃止しました。



    出典は,福永一郎,真鍋敏毅:三歳児聴覚健診について.四国公衛誌40.274-2

    78.1994

                                  です。



 ○ 転載は許可を要します

 ○ 記事,論文等への引用は,引用元を明示し,著者あて連絡ください(事後可)。

   なお,引用された掲載記事,論文のコピーを,当方まで一部お送りください。



                        香川県丸亀保健所 福永一郎

                        PDF01076@niftyserve.or.jp



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    さて,三歳児健診について基礎知識を・・・

    

    私の得意な聴覚をやります。

    

    聴覚健診は,基本的には「中等度難聴」を発見するためにやります。

    ただし,中等度難聴を起こす疾患は多々あります。

    

    ということで,シリーズで聴覚健診のQ&Aをやります

    

    出典は,福永一郎,真鍋敏毅:三歳児聴覚健診について.四国公衛誌40.274-2

    78.1994

    

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    Q.どうして三歳児健診に耳鼻咽喉科的な健診が導入されたのでしょうか。

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    A.以前より,学校教育現場においては,いわゆる勉強についてゆけないこど

    もの中に中等度難聴が原因となっているこどもがときどきいることが問題とな

    っていました。この場合は,幼児期早期に発見して適切な聴能訓練をすること

    が必要となります。また,中耳炎や副鼻腔炎は学童病といわれますが,そのう

    ちでもとりわけ難聴や後遺症(癒着性中耳炎や慢性化膿性中耳炎,真珠腫性中

    耳炎など)を来す難治性の滲出性中耳炎が問題となっていましたが,これは幼

    児期の早期発見早期治療によって後遺症が回避できると考えられています。な

    お,中耳炎による難聴で身体障害者となった方の大部分が,幼児期の中耳疾患

    に由来すると推測されています。

     このような経緯で,これらの聴覚障害の早期発見を目的として導入されまし

    た。

    

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    Q.三歳児健診よりも,むしろ1歳6か月児健診などで,もっと早く見つけれ

    ばよいのではないのでしょうか。

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    A.この質問はよくみられるのですが,大きな誤解があるので説明しておきま

    す。高度難聴は,精神発達所見によって大部分が1歳6か月までに発見可能で

    あり,三歳児健診では高度難聴は特殊なケース以外は対象としていません。三

    歳児健診の主な目的は中等度難聴の発見ですが,この中等度難聴はことばを覚

    える2歳以降でないと発見が難しいのです。中等度難聴を1歳6か月で発見す

    ることは,現実にはかなり難しく,3歳が一つの機会となること,また,中等

    度難聴のうち,もっとも多い疾患である滲出性中耳炎が影響を及ぼしてくるの

    が2歳から6歳ぐらいということが大きな理由です。

     このように,発達の時期によって難聴発見も目的疾患をことにするので,乳

    児健診,1歳6か月児健診,三歳児健診のいずれにも力を入れる必要がありま

    す。

    

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    Q.三歳児の難聴はどのようなものがあるのでしょうか。

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    A.難聴にはいろいろな種類がありますが,大まかにいって以下の通りになり

    ます。

    

    1.難聴の程度

     高度難聴は70dB以上程度の難聴であり,補聴器を用いないと環境音を十分に

    感じることができず,従って,そのままではことばを覚えることができない程

    度の難聴で,できれば乳児期,遅くとも2歳までに,極力早く発見して訓練を

    する必要があります。

     中等度難聴はおおむね40〜60dB程度の難聴で,大まかな音はわかりますが,

    細かいこと(子音など)がわかりませんので,ことばの発達が遅れるとか,コ

    ミュニケーションがとりにくいとかなどの問題があらわれてきます。影響は2

    歳頃からあらわれてきます。

    

    2.治る難聴と治らない難聴

     中耳炎など伝音系(音を内耳に伝えるまでの部分)の難聴は治る難聴に分類

    されます。内耳から中枢側の感音性難聴(音を感じとる部分や神経,脳の異常)

    は原則として治りません(突発性難聴やメニエール病のように治りうるものも

    あります)。



    3.聴力が変動する難聴と固定した難聴

     特殊な病気は別として,幼児によくみられるものでいえば,滲出性中耳炎は

    変動する難聴の代表です。正常から中等度難聴まで幅があり,しかもそれらは

    中耳,耳管,上気道(鼻やのど)の状態によって容易に変動します。たとえば

    軽い滲出性中耳炎で難聴がないものでも,風邪が長引けば容易に滲出液がたま

    り中等度難聴をきたします。

     一方,感音性難聴はほとんどが固定した難聴であり,そのためできるだけ早

    く見つけて適切な訓練をする必要があります。



    4.生まれつきの難聴と後から起こる難聴

     この時期の感音性難聴の大部分は早期新生児期までに起こります。原因はさ

    まざまですが,遺伝や染色体異常によるもの,妊娠中の異常によるもの,周産

    期の異常によるものであり,妊娠早期の異常(風疹など),妊娠中毒症,流早

    産,双胎妊娠,分娩異常,仮死,強黄疸,低体重出生,新生児期の呼吸異常な

    どがリスクが高いものです。高度感音性難聴の頻度は,たとえば低体重児です

    と出生50に1程度,1500g以下ですと出生5に1程度にもなります。これらのリ

    スク要因のある場合は,乳児期から十分なフォローによって早期発見につとめ

    る必要があります。また,原因不明のものも3割程度ありますから,特別なリ

    スク要因がなくとも乳児期から発見に留意します。

     後から起こるものは,感音性難聴はウイルス感染症(流行性耳下腺炎,麻疹

    など)によっておこるもの,髄膜炎などによって起こるものなどがあります。

    なかには自己免疫疾患や遺伝による遅発性の難聴などもあります。いずれも頻

    度はそう高くはありません。昔は中耳炎が悪化して内耳炎や髄膜炎を起こし感

    音性難聴を来すものが多かったのですが,現在は珍しくなっています。

     一方,滲出性中耳炎による難聴は幼児期の代表的なもので,2歳から6歳頃

    までの難聴疾患の大部分を占めます。



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    Q.幼児期の難聴の頻度はどれくらいなのですか。

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    A.まとめて述べますと,三歳児健診での難聴の頻度は



        滲出性中耳炎によるもの 100人に3人程度

        滲出性中耳炎以外によるもの 200〜500人に1人程度



     と推定され,この数字が精密健診の頻度の目安となると思われます。

     なお,難聴のない滲出性中耳炎は,100人に7人程度となり,規定により精密

    健診とはせず,保健指導対象となりますが,滲出性中耳炎の難聴は変動し,治

    療および定期管理が必要なため,受診勧奨が必要です。

     (中略)なお,成人も含めた70dB以上の固定した高度難聴について,「身体

    障害児実態調査」,「身体障害者実態調査」も参考となりますが,それによる

    と,聴覚・言語障害児11,200人(平成3年),聴覚・平衡障害者358,000人と推

    計され,聴覚・平衡障害による身体障害者手帳受給者(平成4年度現在)は

    446,084人であり,日本人口で割るとその頻度は0.36%となり,300人に1人程度

    となります。この半分程度は中耳炎後遺症であり,この数字を減らすことも,三

    歳児健診の大きな目的です。



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    当県では中等度難聴の発見のために会場でのウイスパーテスト(ささやき声検

    査)を導入しています。ちなみに厚生省方式は自宅でのウイスパーテストとな

    っています。



  なお,ヒアリングチェッカーとは50dBの簡易オージオです。

    生活観察とは簡単な精神発達検査です。



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    Q.ささやき声検査は何を見る検査ですか。省略してもよいのですか。

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    A.ささやき声検査は中等度難聴を発見するための客観的検査とし

    て,平成4年度から導入されたものです。

     アンケートのみでは十分なスクリーニングは難しく,ヒアリングチェッカー

    (インファントオージオ)による検査では,中等度難聴は十分発見できませ

    ん。

     このささやき声検査は,検者による差が少なく,精度もよい検査で,正確に

    実施することによって30〜40dB程度の難聴でも発見可能です。ささやき声

    検査で異常があれば,精神発達異常(ことばの遅れなど)がない限りは,中等

    度難聴の疑いが強いです。

     従って,この検査は原則として省略してはいけません。特に,アンケートで

    異常のない児については,無徴候の難聴を発見することができるので,必ず行

    ってください。

    

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    Q.ささやき声検査で異常の場合,どうしたらいいのでしょうか。

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    A.ささやき声の検査でうまく絵を指せないときの場合の話をしま

    す。この場合考えられるのは,@難聴がある A検査が理解できない B機嫌

    が悪い という事態です。

     Bの場合は,生活観察のあと,もう一度再検査をします。

     (中略)@とAについては,検査が理解できているかどうかを調べるため,

    こんどははっきりした声で言い,指ささせます。また,はさみとえんぴつとい

    すの絵のあるページを開いて,「紙を切るものはどれ(通過率93.7%:3歳3

    か月から3歳7か月の79児中)」「絵(字)を書くとき使うものはどれ(通過

    率94.9%)」「座るとき使うものはどれ(通過率97。5%)」とたずねて正しくさ

    せるかを調べます。これらの検査が十分にできない場合には,ことばの遅れが

    存在するので,ささやき声検査での難聴検索はできません。ヒアリングチェッ

    カーによってBOA検査を行い,反応が悪ければ難聴検索(COR検査など)

    を考慮します。規定に従って判定保留となります。なお,この場合はことばの

    遅れがあるので,当然,再相談となります。

     ことばの理解ができている場合は@となり,検査時点での難聴の疑いは濃厚

    ですので,精検となります。なお,滲出性中耳炎による難聴の場合,聴力が変

    動して精検受診時には改善していることがあり,結果「正常」で返事がくる場

    合がありますが,このような場合でも,潜在的に難聴を来す可能性があること

    には留意する必要があります。

    



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    発音の検査は,k(すいか),t(たまご),p(はっぱ)の3音が正しく発音で

    きるか調べます。



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    Q.各検査の解釈について。

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    A.以下にまとめてみました。

    

    1)アンケート

     

    正常の場合→無症状無徴候であるということである。

          病気があるかどうかはわからないが,その確率は多少低くなる。

    異常の場合→何らかの耳鼻咽喉科的疾患が存在しているか,または,最近存在

        していて要注意(現在は正常でも再発する可能性など)であるという可能

        性が高い。

    

    2)ささやき声検査

    

    正常の場合→中等度難聴は当面,否定的である。

          軽度難聴や滲出性中耳炎の有無はわからない。

    異常の場合→難聴があるか,あるいはことばの理解が不十分で検査が理解でき

            ない。ことばの理解の検査に異常がなければ,難聴がある可能性が高い

            が,ことばの理解の検査に異常があれば,難聴の有無はわからない。

    

    3)ヒアリングチェッカー(インファントオージオ)による検査

    

    正常の場合→その周波数とそのレベル(3KHz50dB)での難聴は否定的である。

          (それより低いレベルの難聴はわからない。)

    異常の場合→検査が理解できないか,その周波数とそのレベルは聞こえていな

            い(認知できないことも含む)かのいずれかである。

    ささやき声検査が正常で,この検査が異常の場合

         →難聴はないが検査が理解できない場合か,会話域の聴力は正常で

                3KHz以上の高音部の難聴がある場合。いずれにしても,当面は発

                達障害を起こすような難聴はないと判断する。

    

    4)生活観察

    

    正常の場合→ことばの遅れなどの精神発達の遅れはないので,難聴検索につい

                て精神発達年齢を考慮しなくてもよい。

    異常の場合→ことばの遅れなどの精神発達の遅れがあるかもしれないので,難

                聴検索について精神発達年齢を考慮しなくてはならないから,慎

                重に対処しないといけない。また,難聴が精神発達に影響を及ぼ

                している可能性があるから,難聴の有無をチェックしなければな

                らないが,一連の検査がうまくできない場合は,幼児聴力検査が

                できる施設に聴力精査を依頼しなければならない。

    

    5)発音検査

    

    正常の場合→3/3 とりあえず,現在は正常といえる。

          2/3 正常とも異常とも言えないが,正常化する場合が多い。

                        4歳0か月時に再チェックする。

          1/3 異常であり,とりあえずは器質的な障害がないかどうか

                        チェックし以下 なければいけない。

    



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    ここでは,発達障害に対する総合的アプローチの必要性を聴覚の面から述べます。



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    Q.精神発達異常所見がある児については難聴検索が必要とのことだが,難聴

    検索がどうして必要なのか。本当に全例しなければならないのか。

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    A.感覚器は情報を集める重要な器官であり,そこから得られる情

    報は,脳へ適切にインプットされています。脳が発達する乳幼児期に感覚器障

    害があれば,インプットが不十分になり,精神的な発達が障害されたり,心理

    的に悪影響を及ぼしたりして,ことばの遅れや自閉傾向を起こすことがありま

    す。従って,精神発達所見に異常があれば,感覚器障害の有無を検索すること

    がまず基本となります。

     多くのケースは難聴はないのですが,一部には難聴と精神発達異常を合併し

    ている場合があり,中には潜在的な能力はもっているが,難聴があるために発

    達に遅れを生じているような場合もあります。

     ささやき声検査ができるようなケースの場合は,精神発達所見正常児と同様

    に扱って判定すればよいのですが,ささやき声検査ができなような場合は,難

    聴の検索を必要とします。まず,ヒアリングチェッカー(インファントオージ

    オ)を使ってBOA検査を行いますが,この検査では50dB以上の難聴しかわか

    りませんから,検査に対する十分な受容を図り,ケースカンファレンスを行っ

    てフォロー計画を立ててから,その所見を添えて,医療機関か適切な施設(ま

    たは事業)に紹介することになります。この場合,受け入れ先の施設はCO

    R,ピープショウ検査などの「幼児聴力検査」ができることが必要です。な

    お,脳波聴力検査だけでは不十分です。



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    Q.三歳児健診での判定で,要精密検査,要保健指導はどのくらいの割合にな

    るのでしょう。

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    A.以下に各判定別に述べることとします。

    1.要精密検査は,中等度難聴(疑い),器質的構音障害疑い,および精神発

    達検査異常児の難聴検索目的で行います。平成6年改訂による精検基準では,

     1)中等度難聴疑い@滲出性中耳炎による約3%(30dB以上として)Aそれ以

    外0.3%

     2)器質的構音障害は1%未満

     3)精神発達検査異常児で難聴検索を必要とするものは再相談該当児3%のうち

    耳鼻咽喉科検査異常または不能のもの(約半数と推測)ですから,おおむね1.

    5%程度

     となり,これらを合わせると5%程度となります。

     陽性反応的中率は6〜7割ですから,これから要精密検査の頻度は7〜8%

    が一応の目標となります。この数字から大きくはずれている場合は,検査精度

    の見直しが必要です。

    2.要保健指導は,おおむね30%程度と思われます。

    3.正常判定の場合も,啓発を忘れないでください。

    

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    Q.要保健指導という判定はどういう意味をもつのか。

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    A.平成5年より厚生省の見解が変更され,目的疾患としては,基本的に「中

    等度難聴」以外は対象としないこととなりました。しかしながら,滲出性中耳

    炎をはじめとする耳鼻咽喉科疾患は,聴力が変動することや,発見されにく

    く,放置すると難治性となり,後遺症を来す場合があるなどいろいろな問題を

    かかえています。従って,難聴のないような場合でも,正常と判定して放置す

    ることはできず,適切な対策を講じる必要があります。

     さて,現在の耳鼻咽喉科医や聴能言語治療士・言語療法士など専門スタッフ

    の参加しない香川県方式は,客観的検査によってある程度精度を高めるように

    していますが,基本的に,病気のあるにもかかわらず正常と判定される児(偽

    陰性)と,病気のないにもかかわらず異常と判定される児(偽陽性)の重なり

    があり,そのため両者が重なる部分についてどのように扱うかが問題となりま

    す。この重なりがやや大きい場合は,正常と異常の二つにわけるのではなく,

    段階的スクリーニングを導入することが現実的です。

     平成6年度改訂にあたって,三木町モデル健診データーなどを多変量解析な

    どの方法を用いて分析した結果,かなり異常所見のあるケースのみを精検とす

    るようにして,偽陽性の取り込みを少なくし,一方,両者の重なる部分につい

    ては多少の偽陽性を取り込んででも見逃しを少なくするために,要保健指導と

    いうレベルを設けています。

     要精検の場合,精検対象児の6〜7割程度が有病児となる(陽性反応的中率

    )よう設計されており,実際に,観音寺保健所(平成5年度上半期のデーター

    を平成6年度改訂方式で処理した場合)の,耳疾患に関する陽性反応的中率は

    64.1%です。

     なお,「正常判定」の中にも,「無症状無徴候」の耳鼻咽喉科疾患が含まれ

    ることになりますので,正常判定の場合にも,事後指導時の啓発を行うことと

    しています。滲出性中耳炎の2〜3割は,無症状無徴候といわれ,しかもそれ

    らは必ずしも軽症ではなく,難治例,後遺症を来す例も見られることがわかっ

    ていますから,必ず啓発をしてください。



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    Q.保健指導はどうようなことを行うのか。

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    A.事後指導時に全員に保健指導は行います。別添資料の要領で行いますが,

    要精密検査,要保健指導では重点的な指導,正常判定では一般的な指導となり

    ます。

     前で述べたように,事後指導によってこの健診の欠点を補っている側面もあ

    るので,必ず保健指導が必要です。



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    Q.精密健診の結果をどう評価したらよいのですか?

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    A.精密健診は,該当児の6割から7割程度に耳鼻咽喉科的異常がみられるよ

    う設計されていますので,この数字を大幅に下回る場合は健診実施の精度に問

    題があると思われます。

     なお,要治療か否かは,滲出性中耳炎の場合は医師により方針が異なり,滲

    出性中耳炎があっても経過観察とする医師(こういう場合は,数か月観察の上

    治らなければ観血的治療をする)もいますので,評価の対象にはしない方が無

    難です。また,精検票に耳の疾患について記載がされていない場合は,精検目

    的と精検内容が不適合となるため,評価ができないことになりますが,これに

    ついては医療機関における対処方法が平成6年度中には改善される見込みで

    す。

     また,スクリーニング時と,精密健診が行われるときは時間のラグがあり,

    滲出性中耳炎に関しては所見の変化(滲出液消失など)がみられることがあり

    ますので,偽陽性の評価が一律にはできないことになります。これについては

    精密健診を同時実施した(幼児聴力検査を除く)三木町モデル健診が現在のと

    ころ参考となります。

     三木町モデル健診の結果から,耳鼻咽喉科疾患と問診事項等との検討を行い

    ましたが,現状の一斉健診では,専門医参加による一斉健診を導入しない限り

    では,これ以上選別レベルをあげることは難しいようです。また,専門検査員

    による幼児聴力検査と言語に関する検査を行うことも,現状の一斉健診では難

    しいようです。健診方式は実施可能性や費用効果との問題がありますので,専

    門家がいなくても検査者による格差が少なくなるような現方式とすることとし

    ました。むしろ課題は,「聴力障害は特別な病気だ」「鼻をたらしていてもほ

    っといたら治る」などとする,耳鼻咽喉科疾患に関する誤解や偏見を解くた

    め,保健従事者や一般住民の知識を啓発することにあります。

     滲出性中耳炎の場合は,選別レベルの設定が重要ですが,ティンパノメトリ

    ーという検査を導入すればかなり発見できます。三木町のモデル健診では特異

    度・敏感度とも9割以上でした。ただ,他県で,この検査を導入し,選別レベ

    ルの設定を間違って多数の偽陽性者を出し,住民反応をおこした経緯などによ

    り,日本耳鼻咽喉科学会からは,専門医が参加しない場合の安易な導入は控え

    るよう指導されています。滲出性中耳炎は療育というよりは医療のコースに乗

    せることが目標になります。むしろ,幼児期にはごく一般的な疾患ですので,

    選別して正常異常をわけることを考えるよりは,むしろ啓発教育に力を入れて

    ください。



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    Q.健診の精度管理など,健診をどう評価したらよいのですか?

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    A.健診の評価をするときは,健診がマニュアルに従って正しく行われている

    かどうかが大切です。

     ポイントを以下にあげます。

    

    1.アンケートのききなおしはきちんとされているか。

     問診の際,ポイントを押さえて聞き直さなければなりません。

     いままでの経験では以下のことが特に留意点です。

    * アンケートに「はい(異常)」があっても,よく聞き直すと「いいえ(正

    常)」とな る場合が多い。この場合,必要に応じて7の「その他」に割り振

    る。

    * その一方で,耳鼻科への通院歴などは,こちらからきかないと答えてくれ

    ないことが 多い。「何もないですね」「実は・・・」というケースもよくあ

    る。滲出性中耳炎治療 中のケースは,既往歴をきかなければ聴覚健診が正常

    判定となる場合がままあるが,そ こで「心配ない」と言って,治療中断など

    すると,容易に悪化する。

    

     今回の改訂では,そのため,問診のための表を用意しました。

    

    2.ささやき声検査の実施

     省略していませんか? 特にアンケートで異常がない児は必ず検査してくだ

    さい。

     実施要領に従って,正しく行われていますか?

     口もとはかくしていますか。絵本は立てていますか。

     見込みで判定していませんか?

     なお,この絵本は言語発達検査全般に使用することができます。

     静かな部屋を確保できていますか。

    

    3.ヒアリングチェッカーによる検査

     検査の意味を理解していますか?正しく15cm,水平に。

     静かな部屋を確保できていますか。

    

    4.生活観察

     生活観察を行う際,難聴を頭にいれていますか?

    

    5.発音検査

     k(か),t(た),p(ぱ)が言えればOKです。

    

    6.要精検,要指導の判定

     カルテをチェックし,判定が正しく行われているかどうかを評価します。な

    お,いままでは,精検の件数から考えて,判定は正しく行われているとは言え

    ません。

    

    7.保健指導

     「知っていますか,滲出性中耳炎」は全数配布していますか。これは特に何

    もない正常判定の人には必ず渡してください。これを渡すことが,行動科学的

    理論によって健診の精度維持に組み込まれています。

     保健指導はきちんとされていますか。正常判定の場合はひとことふたこと程

    度で済みます。

    

    8.精検票の発行

     精検依頼内容の記載は規定通り行なわれていますか。

     必要に応じて紹介状(親展)を添付してください。

    

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    Q.精検該当児で「耳鼻科治療中」の場合の取り扱いについて。

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    A.まず,疾患と通院状況を確認してください。それによって対処します。

    

    1.滲出性中耳炎で継続的に通院していることが確認されれば定期管理中とし

    て精検票は発行しないで要保健指導としてください。

    例)「滲出性中耳炎で定期的に通院中です。」「中耳炎で,いまはいいといわ

    れているののですが,ひきつづいて1カ月に1回耳をみてもらっています。」

    という場合は定期管理中です。

    

    2.中耳炎を繰り返すなどで不定期に通院している場合は,定期管理されてい

    るとは言えないので精検にしてください。

    例)「風邪をひくとよく(急性)中耳炎になります。このあいだも中耳炎にな

    りましたが,2週間前に治り,それから行っていません。悪いときだけ通院し

    ています。」「耳に水がたまる中耳炎で1カ月ほど治療をしましたが,もう来

    なくていいといわれたので治ったと思います。」「中耳炎で通院していたので

    すが,症状もないし治ったようですので行っていません」という場合は定期管

    理とは言えないので,再発(滲出性中耳炎は再発率が高い)の有無や,中耳炎

    を繰り返す基礎疾患を調べるために,精検とします。