厚生科学研究費補助金(健康科学総合研究事業)
分担研究報告書
連携実現のための保健計画の有効性に関する研究
分担研究者 實成文彦
香川医科大学人間環境医学講座 衛生・公衆衛生学 教授
研究班構成
分担研究者
實成文彦 香川医科大学人間環境医学講座 衛生・公衆衛生学 教授
研究協力者
福永一郎 香川医科大学人間環境医学講座 衛生・公衆衛生学 助教授
前 香川県坂出保健所 副主幹(〜平成10年12月)
星 旦二 東京都立大学 都市研究所 助教授
笠井新一郎 高知リハビリテーション学院 言語療法学科 教授
直島淳太 香川医科大学人間環境医学講座 衛生・公衆衛生学 大学院生
香川県坂出保健所 嘱託医師
小川陽子 香川県飯山町役場 管理栄養士
秋山和子 香川県坂出保健所 副主幹
足立江理 香川県坂出保健所 主任技師
藤内修二 大分県佐伯保健所 所長
藤原佳典 京都大学医学研究科 大学院生、東京都立大学都市研究所
平尾智広 香川医科大学人間環境医学講座 衛生・公衆衛生学 大学院生
田所昌也 香川医科大学人間環境医学講座 衛生・公衆衛生学 大学院生
小倉永子 香川医科大学人間環境医学講座 衛生・公衆衛生学 大学院生
香川県大内保健所 嘱託医師
浅川冨美雪 倉敷芸術科学大学 人間環境科学 教授
研究要旨:四国内の全市町村を対象に調査を行い、保健、医療、福祉の連携に関する現状認識および保健計画推進に関わる事項の現状と意識、連携に関する現状認識と保健計画推進過程との関連を分析し、連携に寄与する要因について検討を行った。その結果を以下に示す。
1.地域での有効な連携体制を形作るための基盤となる計画的な保健活動推進の要素について、保健福祉計画の状況、保健医療福祉を話し合う場の状況、地域での住民組織の育成状況を調査した。総合的な保健計画や福祉計画を作成しているところは少なく、計画の推進過程では、地域ぐるみ、まちづくりと言った点では十分ではなかった。総合的な保健や福祉の協議会などの現状は、協議会などがあるのは保健では6割の自治体、福祉では15%の自治体にとどまる。これらの協議会は、多領域にわたる構成員からなり、潜在的には地域での連携を含めた計画的な保健福祉活動を話し合える場として機能しうるものを持っていると思われるものの、現状では有効に機能していない。 住民組織の育成では、食生活推進・健康づくり領域以外は積極的に育成しているという自治体は少なく、組織の育成を視野に入れて保健福祉活動を進めてゆく必要がある。
2.保健計画の存在や、話し合う場の存在といった保健計画の推進過程(計画的な保健活動の推進過程)の存在は、保健、医療、福祉の連携に寄与することが示唆された。保健所の市町村への援助や市町村からの保健所への期待が連携に良好な影響を与えると考えられ、保健所機能強化を行うことによって、保健所管内自治体の保健、医療、福祉の連携状況に良好な影響を直接的あるいは間接的に与えうることが示唆された。
3.地域における保健、医療、福祉の連携とは、地域住民と、その健康やQOLの向上に寄与すべき役割を持つ複数機関や複数職種が、目的を共有し、その達成のために役割分担を行い協働することであり、その推進には以下のことが必要である。
1)保健、医療、福祉の関係者の接点、2)関係者間の相互理解と協議する場、3)潜在的な需要の計測、4)住民の声を知る努力と、活動への反映、5)住民の需要に沿った活動目的の共有、6)適切な役割分担、7)連携成果の科学的評価、8)上記1〜7)の推進を意図した保健所機能の強化。
上記の連携推進の要素は、保健計画の推進過程と共通しており、保健計画の推進によって、連携は強り、また連携を強めることによって保健計画の推進は容易になると言う相乗作用があり、連携推進には保健計画推進が及ぼす効果が高いものと考えられた。
4.いわゆる「地域づくり型保健活動」の推進が行われている香川県下の事例を報告した。その活動は保健計画の推進過程そのものであり、活動の推進過程の検討から、住民主体型の保健計画的手法は、保健と福祉の連携に良好な効果をもたらすことがわかった。
A.はじめに
地域での有効な連携体制を形作るためには、計画的な保健活動推進過程の中で連携を構築してゆくことが必要である。
そのため、計画的な保健活動を推進することが連携を構築するために求められるが、計画的保健活動のポイントとなる、地域ぐるみでの計画的保健活動すなわち住民、地域での専門家集団、行政がお互いに話し合う場を共有し、協働して保健や福祉の計画をつくり、役割分担を行い、実施し、実施結果の評価を行うということが重要である。
本分担研究では、主として保健計画推進過程を中心に、連携推進要因について検討を加え、研究成果をもとに、地域での保健、医療、福祉の連携構築に関し提言を行う。
B.研究方法
1.市町村保健福祉計画と連携・協働の場の実態
四国4県の全市町村自治体(徳島50、香川43、愛媛70、高知53)のうち、政令市保健所を設置している2市(松山市、高知市)をのぞく214自治体の保健部局と福祉部局を対象に、郵送法によるアンケート調査にて行った。回答は保健部局では保健婦責任者、福祉部局では福祉主管部署の担当者にお願いし、必要な場合は各福祉領域(高齢者、障害、児童)担当者の意見のとりまとめも依頼した。質問項目は以下である。
1)保健福祉計画の現状
(1)保健部署
@総合的保健計画の有無 A計画作成にあたっての配慮 B作成過程での特徴
C計画の実施は順調か
A〜Cについては、総合的保健計画のある自治体はその計画について、ない自治体は母子保健計画、老人保健計画などを総合的に判断しての回答を求めた。
(2)福祉部署
@総合的福祉計画の有無 A計画作成にあたっての配慮 B作成過程での特徴
C計画の実施は順調か
A〜Cについては、総合的福祉計画のある自治体はその計画について、ない自治体はエンゼルプラン、障害者プラン、老人福祉計画などを総合的に判断しての回答を求めた。
2)地域の健康などを話し合う場の実態
(1)保健部署
@健康づくり推進協議会などの有無
A健康づくり推進協議会などの現状
(2)福祉部署
@総合的な福祉の協議会などの有無
A総合的な福祉の協議会などの現状
3)住民組織の育成についての現状認識
(1)住民組織の育成
@保健部署
老人保健・高齢者福祉領域、食生活改善・健康づくり領域、母子愛育会(班)、愛育会以外の子育てサークルなどの母子保健領域、障害児者福祉領域(ボランティア、親の会、患者会など)、保健領域全体を通じた住民組織
A福祉部署
高齢者福祉領域、障害児者福祉領域、児童福祉領域
(2)住民組織活動や住民パワーの活性化の見通し
2.保健行政の医療、福祉の連携認識と保健活動の現状・展望との関連(福永ほか)
上記1.「市町村保健福祉計画と連携・協働の場の実態」と同じ調査対象において、郵送法によるアンケート調査にて行った。そして以下のクロス集計を行い、保健活動の現状、保健所への期待、今後の保健活動に関する意識と、連携の現状認識との間の関連を明らかにした。
1) 保健活動の現状(地域ぐるみの保健活動、市町村保健活動への保健所の援助、総合的保健計画の有無、健康づくり推進協議会など、保健に関して話し合う場の状況、情報収集体制)と以下(1)、(2)の項目の連携に関する認識との関連
2) 保健所への期待(情報センター機能、地域の保健計画推進に関する役割、地域ぐるみの保健活動推進に関する役割)と以下(1)、(2)の項目の連携に関する認識との関連
3) 今後の保健活動(インフォームドチョイス、住民組織活動や住民パワーの見通し)と以下(1)、(2)の項目の連携に関する認識との関連
(1)老人保健・健康づくり領域
福祉行政分野が行っている高齢者福祉対策との連携、保健所が行っている老人保健対策との連携、保健所が行っている難病や精神保健(痴呆など)対策との連携、国民健康保険担当課との連携、医療機関との連携、福祉施設(特別養護老人ホーム、在宅介護支援センターなど)との連携、学校保健での小児期からの生活習慣病予防対策との連携、地域の健康づくり施設や健康運動指導士会などとの連携、地域の産業保健(労働衛生行政・事業所産業看護職など)との連携、社会福祉協議会との連携
(2)母子保健領域
児童福祉行政担当部署が行っている各種児童福祉施策との連携、障害児者福祉行政担当部署が行っている各種児童福祉施策との連携、教育委員会の行っている事業(教育相談、障害児教育の事業)との連携、保健所が行っている母子保健施策や療育指導事業、家庭訪問との連携、学校保健関係者(養護教諭、保健主事など)との連携、医療機関との連携、児童福祉施設(保育所など)との連携、障害児者教育・福祉施設(学校、入所、通所施設、作業所など)との連携、社会福祉協議会との連携
3.保健と医療と福祉の「連携」の推進要因に関する検討
「保健行政サービスにおける医療・福祉との連携方策に関する実証的研究(主任研究者 武田則昭)」の分担研究である1.「住民から見た連携の必要性に関する研究(分担研究者 福永一郎)」、2.「保健サービスに対する連携の意識に関する研究(分担研究者 福永一郎)」、3.「福祉サービスに対する連携の意識に関する研究(分担研究者 笠井新一郎)」、4.「連携実現のための保健計画の有効性に関する研究(分担研究者 實成文彦)」の4つの分担研究班の研究成果を総括し、保健と医療・福祉の連携の推進を規定する要因と、推進するための具体的な推進方法の試案を提示した。
4.住民主体型の保健活動の推進過程と連携について(直島ほか)
住民主体の保健・福祉活動、いわゆる「地域づくり型」の推進を試行している事例として、保育所を場とした「子育て世代の健康づくり活動」を報告した。
C.研究結果 及びD.考察
本分担研究は、個別研究の一部が研究結果を総合的に考察した報告となっているため、研究結果及び考察を同時に記述する。
1.市町村保健福祉計画と連携・協働の場の実態
1)保健福祉計画の現状
(1)保健部署
総合的な保健計画がある自治体は13%であり、大部分の自治体では策定していなかった。計画作成にあたっての配慮では、長期プランに沿ってたてられている、地域特性を反映している、地域の社会資源の活用を意図しているとしたのは7割台で、地域づくり・まちづくりを意図しているとしたのは半数弱、地域ぐるみで役割分担は3割程度と低い。他の計画との整合では、福祉部署の計画との整合は9割近くの自治体がとっているが、自治体総合計画では6割程度、保健所の地域保健医療計画とは3割程度である。作成過程での特徴としては、保健福祉関係者や住民の意見の聴取、福祉分野や医療分野からの参加、協議会や作成委員会などを組織、統計資料の検討や実態調査の実施は高い。あるべき姿を描いて地域での理想なり目標を設定、住民や組織代表が策定作業へ参加では半数程度である。個別の事業計画の集合体ではないとしたのは半数程度である。計画の実施は順調であるとしたのは少なかった。
(2)福祉部署
総合的福祉計画がある自治体は27%であった。計画作成にあたっての配慮については、保健部署とほぼ同じような傾向を示した。作成過程での特徴では、多くの項目で保健部署と同じような傾向を示し、全体的にみて保健部署の同じような項目に比べると「はい」と答えた割合が高かった。計画の実施は順調としたところは2割弱と少ない。
2) 地域の健康などを話し合う場の実態
健康づくり推進協議会は、おおむね半分程度の自治体にある。総合的な協議会や連絡会議がない、協議会や連絡会議のようなものはないとしたものも4割近くを占める。健康づくり推進協議会の現状では、各方面からの参加を得ていて、それなりに構成員と母体の会の連携はとれているようであるが、開催回数は年1〜2回以下とした割合が高く、回数が多いとはいえない。協議事項は、行政の施策、保健計画の策定、啓発活動では多いが、連携の協議や役割分担は多くはない。他の協議会や連絡会議では、健康づくり推進協議会に比べると保健所や住民組織の参加割合が減少している。
総合的な福祉を話し合う協議会は15%の自治体にあり、協議会は多領域の参加を得ていて、「保健医療福祉の連携」についての協議が多い。福祉の計画に関する協議をしている割合は少ない。
3)住民組織の育成についての現状認識
(1)住民組織の育成
保健部署では、食生活改善・健康づくり領域はいずれの県でも積極的である。保健領域全体を通じた組織では、育成はかならずしも十分ではない。母子愛育会をはじめ、県による差が大きい項目が多い。福祉部署では、高齢者対策領域、障害児者対策領域、児童福祉領域のいずれも業務上可能な範囲でとしたところが多く、特に育成を図っていないというところも1〜2割ある。
(2)住民組織活動や住民パワーの活性化の見通し
住民組織活動や住民パワーの活性化については、保健部署では全体でみると期待度が高く、福祉部署では保健部署に比してやや期待度が低くなる。
上記結果から、以下のことが考察される。総合的な保健計画や福祉計画を作成しているところは少なく、既存の保健や福祉の計画を含め、計画の推進過程では、大部分の自治体が策定委員会などを設置し、福祉や医療、住民代表などを協議の場に迎えて意見を述べる形態はとっていると思われる。計画作成にあたっての配慮では、地域ぐるみ、まちづくりと言った点では十分ではなく、これらの協議会が計画作成過程において有効に機能していない。住民主体の計画、また連携を反映した包括的保健活動の基盤としての計画策定は十分に行われていないと推測される。
総合的な保健や福祉の協議会などの現状でみると、協議会などがあるのは保健では6割の自治体、福祉では15%の自治体にとどまっている。これらの協議会は、住民代表、地域の専門家、複数領域の行政担当者と、多領域にわたる構成員を集めており、潜在的に地域での連携を含めた計画的な保健福祉活動を話し合える場として機能しうるものを持っていると思われるが、現状では有効に機能しておらず、ことに保健福祉計画や役割分担を協議する場としては機能していないところが多い。連携を話し合う場としては、福祉の協議会では議題となっていることが多いようであるが、計画に関する協議は少なく、包括的な保健福祉に基づく連携協議とは言えないようである。しかし、総体的にみて関係者が話し合う場としては比較的機能しているものと思われるので、計画的な保健福祉活動の手法を導入することが望まれる。
保健福祉活動への住民の主体的参加の担い手となる住民組織の育成では、食生活推進・健康づくり領域以外は積極的に育成しているという自治体は少なく、今後、セルフヘルプグループのポテンシャルや地域性を十分に生かしながら、住民組織の育成を視野に入れて保健福祉活動を進めてゆく必要がある。
2.保健行政の医療、福祉の連携認識と保健活動の現状・展望との関連
1) 保健活動の現状と連携に関する認識との関連
「地域ぐるみの保健活動」について、老人保健・健康づくり領域では、高齢者福祉行政、保健所の難病・精神保健対策、福祉施設、社会福祉協議会との各連携で「連携をとっている」と回答した割合に大きな違いがあり、いずれも「支障がない」、あるいは「支障はあるがそれなりにやっている」としたところが、「支障がある」としたところより、連携がとれているとしている。母子保健領域では、児童福祉行政、障害児者福祉行政、児童福祉施設ではおのおの「連携をとっている」と回答した割合に大きな違いがあり、いずれも「支障がない」、あるいは「支障はあるがそれなりにやっている」としたところが、「支障がある」としたところより、連携がとれているとしている。
保健所の援助について、老人保健・健康づくり領域では、保健所の対策(老人保健、難病・精神保健)、福祉施設、産業保健、社会福祉協議会との連携で、援助が受けられている方が連携をとっていると認識している度合いが高い。高齢者福祉行政、国民健康保険担当課、学校保健との連携ではあまり違いはない。母子保健領域では、 障害児者福祉行政、保健所の母子保健、社会福祉協議会との連携で保健所から援助が受けられている方が連携をとっていると認識している度合いが高い。
総合的保健計画の有無については、老人保健・健康づくり領域では、高齢者福祉行政をはじめすべての領域との連携で総合的保健計画がある方が連携がとれている度合いが高い。母子保健領域では、学校保健、社会福祉協議会との連携を除く領域で総合的保健計画がある方が連携がとれている度合いが高い。
健康づくり推進協議会など、保健に関して関係者が話し合う場については、老人保健・健康づくり領域では、高齢者福祉行政、国民健康保険担当課、学校保健との連携では、話し合う場がある方が連携がとれている状態であり、母子保健領域では、児童福祉行政、障害児者福祉行政、保健所の母子保健、医療機関、児童福祉施設、障害児者教育福祉施設で、話し合う場がある方が連携をとっていると認識している度合いが高かった。
情報収集体制については、老人保健・健康づくり領域では、高齢者福祉行政、国民健康保険担当課との連携で、母子保健領域では、児童福祉行政、学校保健関係者、児童福祉施設、障害児者教育福祉施設、社会福祉協議会との連携で、「情報をあらかじめ系統立てて集めるシステムがある」「その都度情報を集めて記録・集積している」とした群の方が、「記録・集積はしていない」「特別な情報収集はしていない」とした群よりも、連携の現状認識が良好であった。
2) 保健所への期待と連携に関する認識との関連
「保健所が情報センターの役割を果たすべきか」について、老人保健・健康づくり領域では、高齢者福祉行政、保健所の難病・精神保健対策、国民健康保険担当課、医療機関、福祉施設との連携では、肯定回答群では否定回答群に比し連携がとれている認識が高かった。肯定回答で実際に保健所の援助がある(以下「そう思う・援助あり」)でみると、保健所の対策、産業保健、社会福祉協議会では他に比し連携がとれている認識が高く、他にも若干連携がとれている回答が増加しているものもあった。母子保健領域では、児童福祉行政、障害児者福祉行政、教育委員会の事業、児童福祉施設、社会福祉協議会との連携では肯定回答群では否定回答群に比し連携がとれている認識が高かった。「そう思う・援助あり」でみると、障害児者福祉行政、保健所の母子保健との連携で他に比し連携がとれている認識が高かった。
地域の保健計画の推進に関する役割については、老人保健・健康づくり領域では、国民健康保険担当課、医療機関との連携では肯定回答群では否定回答群に比し連携がとれている認識が高かった。「そう思う・援助あり」でみると、高齢者福祉行政、保健所の対策、産業保健では他に比し連携がとれている認識が高かった。母子保健領域では、教育委員会の事業、保健所の母子保健、医療機関、児童福祉施設、社会福祉協議会との連携では肯定回答群では否定回答群に比し連携がとれている認識が高かった。「そう思う・援助あり」でみると、障害児者福祉行政、保健所の母子保健、社会福祉協議会との連携では他に比し連携がとれている認識が高かった。
地域ぐるみの保健活動推進に関する役割については、老人保健・健康づくり領域では、多くの項目で肯定回答群では否定回答群に比し連携がとれている認識が高く、「そう思う・援助あり」でみると、高齢者福祉行政、保健所の対策、国民健康保険担当課、社会福祉協議会との連携では他に比し連携がとれている認識が高かった。母子保健領域でも、多くの項目で肯定回答群では否定回答群に比し連携がとれている認識が高く、「そう思う・援助あり」でみると、障害児者福祉行政、保健所の母子保健で他に比し連携がとれている認識が高かった。
保健所と市町村の役割分担、保健所の援助スタンスでは、対等の立場での支援か指導的役割での支援であるか、積極的に市町村業務に関わるかそれとも求めに応じて関わってもらうかの違いがあり、これらと連携の現状認識との間には明瞭な関連傾向は認められない結果であった。
3) 今後の保健活動と連携に関する認識との関連
インフォームド・チョイスに関して、「必要と思うのですでに実施している」「必要と思うので実施に向け検討したい」と、「必要と思うが実施は難しいと思う」「必要性を感じない」との2群に分け連携の現状認識との間でクロス集計したところ、老人保健・健康づくり領域では、高齢者福祉行政、保健所の対策、国民健康保険担当課、医療機関、社会福祉協議会との連携で前者が後者に比し連携がとれている状況であった。母子保健領域では、障害児者福祉行政、保健所の母子保健、児童福祉施設、障害児者教育福祉施設との連携で前者が後者に比し連携がとれている状況であった。
住民組織活動や住民パワーの見通しでは、「大いに期待しており、実際にも可能と思う」とそれ以外とでクロス集計したところ、老人保健・健康づくり領域では、高齢者福祉行政、保健所の難病・精神保健対策で前者の方が連携がとれている状況であり、母子保健領域では、多くの項目で前者の方が連携がとれている状況であった。
今回の結果は、保健計画の存在や、話し合う場の存在といった保健計画推進過程が連携と関連することを示しており、保健計画(計画的な保健活動)が連携に寄与すると言う点について、十分な示唆を与えるものと思われる。保健所機能については、多くの項目で連携の現状認識と保健所への期待との関連がみられる結果であり、総体としては、保健所の援助状況や保健所への期待が連携に良好な影響を与える、あるいは相互作用があると考えてもよいと思われる。今回の分析結果からは、地域での保健所機能強化を行うことによって、保健所管内自治体の保健、医療、福祉の連携状況に良好な影響を直接的あるいは間接的に与えうることが示唆される。
今後重要となる情報提供と自己選択(インフォームドチョイス)や、住民主体型の計画的保健活動の重要な要素となる住民組織活動の見通しでは、前者では前向きな回答をしたところが連携の現状認識ではよくとれているとしたのが高かった。インフォームドチョイスを実現するには、保健、医療、福祉の連携は不可欠な要素となるが、今回の結果は、市町村保健行政担当者の認識(開明度)が、連携にも相互に作用することを示唆する。後者では地縁的結合の強弱など、地域性が反映されるので、結果の解釈には留意が必要である。
3.保健と医療と福祉の「連携」の推進要因に関する検討
1) 連携の目的(なぜ連携が必要なのか)
連携とは、各種の地域活動を、包括的な観点から計画的に関連づけることであり、その関連づけは、活動の対象となる住民が主体的に求める需要に沿ったものでなければならない。これまでの知見をもとに、連携の概念を規定すると以下のようなものになる。
(1) 地域における保健、医療、福祉の連携とは、地域住民と、その健康やQOLの向上に寄与すべき役割を持つ複数機関や複数職種が、目的を共有し、その達成のために役割分担を行い協働することである。
(2) 地域における保健、医療、福祉の連携は、地域住民の健康やQOLの向上のための手段であり、地域住民の主体的参画が保障されるべきである。
(3) 地域における保健、医療、福祉の連携の過程は組織的努力によるものであり、その成果は、住民個人個人に還元されるべきである。
(4) ここでいう連携は、保健、医療、福祉の行政分野に限定されることなく、地域住民のQOLの向上に関与する地域活動をひろく包括するものである。
連携実現に必要な要素について、4分担の研究報告から導き出される知見からみて、以下のようなことが必要とされる。
(1) 保健、医療、福祉の関係者の接点が必要である。接点は、連絡調整の過程で得られることが多いが、住民組織によって確保される場合もある。
(2) 関係者間の相互理解が必要であり、協議する場があるとさらに有効である。
(3) 顕在化した要求にだけ対応するのではなく、潜在的な需要を計測する必要がある。単に顕在化した要求にだけ対応するために連絡を取ることは、その要求については有効な場合があるが、客観性があるとは言えず、その場限りであって、連携のための基盤も整備されない。
(4) 住民の声を知ろうとし、活動に反映させること。発展形として住民の主体的な参加を求められればより効果的である。
(5) 住民の需要に沿った形で、みんなで目的を共有する必要がある。
(6) 連携の実行は関係機関や関係者間の役割分担に従って行われる必要がある。
(7) 連携の成果を科学的に評価することが必要である。
(8) 今回の研究の結果からみると、市町村段階での上述の役割を援助できる働きを潜在的に持っているのが保健所であると考えられ、保健所機能の強化を行う場合、上記のような視点に留意する必要がある。
2) 連携の方法としての保健計画の推進について
本分担「連携実現のための保健計画の有効性に関する研究」では、保健計画の有無、保健計画を話し合う場の有無と連携の現状認識との間の関連性が示されたので、保健計画について、推進過程の概略を述べる。
保健活動におけるPLAN-DO-SEEとは、現状を観察し(SEE)、対策を考え(PLAN)、実行(DO)し、その評価を行う(SEE)サイクルであるが、それは地域での理想の状態(あるべき姿)に向かって行われなければならない。理想の状態からみて地域がどのような現状にあるのかを観察することが「評価」であり、理想に近づくために当面の目標を設定し推進してゆく過程が保健計画として位置づけられる。
保健計画が地域で有効なものとなるには、地方自治の推進過程の一つとして、包括的にすすめられることが理想である。保健計画の要素としては、以下が確保されることが必要である。
(1) 場の存在と住民の主体的な参加
(2) 共通の活動目的の存在
(3) 現状の評価
(4) 活動目標の設定、活動の優先順位の決定、役割分担
(5) 活動評価指標の設定
また、保健計画の手法は、大きくは「現状分析−課題発見−解決」という活動形態をとる「課題解決型」と、「理想−目標設定−行動」と言う活動形態をとる「目標設定型」の2つの形態を対比させて論じられることが多い。課題解決型保健活動による計画推進過程は、現在の健康に関する状況を検討分析して、見いだされた課題に対して解決方法を考え、活動を推進してゆくもので、これらの課題を保健計画を立てる人たちの間で共有し、解決方法を話し合い、目標を立て、優先順位を決定し役割分担を行う。ただし、課題解決とは、単に問題として顕在化した事象の解決を行うことではなく、地域での理想的な状態を見据えた上で、現状を観察して見いだした課題について検討することである。一方、目標設定型保健活動による計画推進過程は、まず最初に保健活動を話し合う場の設定が行われ、そこでまずみんなで地域での目的(あるべき姿)を共有し、その目的から具体的な目標を最初に設定する。その際、地域でのあるべき姿を住民自らが論じ、共有することが必ず行われる。そこで設定された目標に対して、現状の検証を行い、目標と現実とのギャップを計測し、目標実現のための条件を明らかにして、具体的な活動評価指標を設定して活動内容の企画や役割分担を行う過程である。
これらの手法は、従来、対比されて論じられることが多いが、おのおの特徴を持っており、どちらが有効かと言ったような観点で論じられるべきものではなく、その地域に合ったようにアレンジされて行われるべきである(詳細は個別報告を参照されたい)。
保健計画は、地域での保健、医療、福祉及び関連する分野の人たち(住民を含む)が、住民を対象に行う活動の目的や目標を共有し、役割を分け合って活動するための一種の約束であるとも言えるが、保健計画の推進過程で、おのずから連携は強まってゆくし、連携を強めることによって保健計画の推進は容易になると言う相乗作用がある。
3) 現実的な取り組みへの方策
今回の4分担の研究を通じて、地域での保健、医療、福祉の連携を構築するに当たり、現実的な取り組みへの方策について列挙すると以下となる。
(1) 連携の重要性についての機関内合意と、従事者の適材適所性の確保
(2) 身近な活動(事業、業務)を科学的、客観的なものにすること
(3) 住民の保健、医療、福祉に対する需要や要望を知ること
(4) 日常業務の分析評価と問題点の抽出
(5) 人と人とのネットワークづくり
(6) 行政外組織の保健、医療、福祉従事者・専門家活動活性化と意見聴取
(7) 住民組織の活性化と意見聴取
(8) 協議会などの、行政と地域の専門家と住民組織代表が話し合う場の活性化
(9) 各段階に応じた話し合う場の用意
(10) みんなで情報を共有すること
(11) 連携がもたらしうる効果をみんなで確認すること
(12) 保健計画を推進すること
4.住民主体型の保健活動の推進過程と連携について(直島ほか)
直島らは、住民主体の保健・福祉活動、いわゆる「地域づくり型保健活動」の推進が行われている事例として、保育所を場とした「子育て世代の健康づくり活動」を報告した。飯山町立飯山南保育所(香川県飯山町)にて、園児の親または家族を中心にして、保育所職員、町職員、保健所職員、大学研究者などの学識経験者を含むメンバーが援助する形態で、地域での子育て世代の健康作りについての理想的なあるべき姿を描き、そのための目標を設定した。この過程において、親の参加するセルフヘルプグループが能動的な健康づくり活動の担い手となり、住民主体の協働型保健活動のモデルケースとなることを目指した。活動の推進は、当事者の話し合いを中心とし、話し合いの結果をまとめるに当たっては、ヘルスプロモーションの具現化モデルとしてGreenらが提唱・開発したPrecede-Proceed Modelを利用した。
本活動の特徴的な点は、保育所保母や町管理栄養士が別々に持っていた思いというものが、当事者(親)の主体的参加による「保健計画づくり」という方法で、当事者の意思が反映されたものとして包括化されつつあるところである。本活動は、保健部署と児童福祉施設の連携であり、保健、福祉の連携のモデルケースでもあるが、当事者主体の活動を行うことによって、目的共有(子育て世代のQOLの向上と次世代・・こどもの世代・・への反映)が速やかに行われ、急速に連携を深めることができた。このような保健計画的な手法が連携に及ぼす効果を一部実証している活動であると思われる。なお、今回の活動過程は保健計画の推進過程そのものであり、活動の推進過程から、住民主体型の保健計画的手法は、保健と福祉の連携に良好な効果をもたらすことがわかった。
E.結論
1.地域での有効な連携体制を形作るための基盤となる計画的な保健活動推進の要素について、保健福祉計画の状況、保健医療福祉を話し合う場の状況、地域での住民組織の育成状況を調査した。総合的な保健計画や福祉計画を作成しているところは少なかった。既存の保健や福祉の計画を含め、計画の推進過程では、大部分の自治体が策定委員会などの設置し、福祉や医療、住民代表などを協議の場に迎えて意見を述べる形態はとっていると思われるものの、計画作成にあたっての配慮では、地域ぐるみ、まちづくりと言った点では十分ではなく、これらの協議会が計画作成過程において有効に機能しておらず、住民主体の計画、また連携を反映した包括的保健活動の基盤としての計画策定としては不十分なものになっていると推測された。
総合的な保健や福祉の協議会などの現状でみると、協議会などがあるのは保健では6割の自治体、福祉では15%の自治体にとどまる。これらの協議会は、住民代表、地域の専門家、複数領域の行政担当者と、多領域にわたる構成員を集めており、潜在的に地域での連携を含めた計画的な保健福祉活動を話し合える場として機能しうるものを持っていると思われるものの、現状では有効に機能しておらず、ことに保健福祉計画や役割分担を協議する場としては機能していないところが多い。連携を話し合う場としては、福祉の協議会では議題となっていることが多いようであるが、計画に関する協議は少なく、包括的な保健福祉に基づく連携協議とは言えないようである。しかし、総体的にみて関係者が話し合う場としては比較的機能しているものと思われるので、計画的な保健福祉活動の手法を導入することが望まれる。
保健福祉活動への住民の主体的参加の担い手となる住民組織の育成では、食生活推進・健康づくり領域以外は積極的に育成しているという自治体は少なく、今後、セルフヘルプグループののポテンシャルや地域性を十分に生かしながら、住民組織の育成を視野に入れて保健福祉活動を進めてゆく必要がある。
2.保健計画の存在や、話し合う場の存在といった保健計画の推進過程(計画的な保健活動の推進過程)の存在は、保健、医療、福祉の連携に寄与することが示唆された。
保健所機能については、多くの項目で連携の現状認識と保健所への期待との関連がみられる結果であり、保健所の市町村への援助状況や、市町村からの保健所への期待が、連携に良好な影響を与えると考えられる。従って、保健所機能強化を行うことによって、保健所管内自治体の保健、医療、福祉の連携状況に良好な影響を直接的あるいは間接的に与えうることが示唆される。
今後重要となる情報提供と自己選択(インフォームドチョイス)では前向きな回答をしたところが連携の現状認識ではよくとれているとしたのが高かった。
3.地域における保健、医療、福祉の連携とは、地域住民と、その健康やQOLの向上に寄与すべき役割を持つ複数機関や複数職種が、目的を共有し、その達成のために役割分担を行い協働することであり、その推進には以下のことが必要である。
1)保健、医療、福祉の関係者の接点、2)関係者間の相互理解と協議する場、3)潜在的な需要の計測、4)住民の声を知る努力と、活動への反映、5)住民の需要に沿った活動目的の共有、6)適切な役割分担、7)連携成果の科学的評価、8)上記1〜7)の推進を意図した保健所機能の強化。
上記の連携推進の要素は、保健計画の推進過程と共通しており、保健計画の推進によって、連携は強まり、また連携を強めることによって保健計画の推進は容易になると言う相乗作用があり、連携推進には保健計画推進が及ぼす効果が高いものと考えられた。また、現場での取り組みの具体策について提言した。
4.住民主体の保健・福祉活動、いわゆる「地域づくり型保健活動」の推進が行われている香川県下の事例を報告した。その活動過程は保健計画の推進過程そのものであり、活動の推進過程から、住民主体型の保健計画的手法は、保健と福祉の連携に良好な効果をもたらすことがわかった。
F.研究発表
(学術論文)
福永一郎、實成文彦.計画づくりの手法−保健計画推進に必要な要素からみた計画づくり手法について.公衆衛生 1998;62:706-714.
G.知的所有権の取得状況
なし