厚生科学研究費補助金(健康科学総合研究事業)
分担研究報告書
 
保健サービスに関する連携の意識に関する研究
 
分担研究者 福永 一郎
   香川医科大学人間環境医学講座 衛生・公衆衛生学 助教授
 
研究班構成
 分担研究者
    福永一郎  香川医科大学人間環境医学講座 衛生・公衆衛生学 助教授
          前 香川県坂出保健所 副主幹(〜平成10年12月)
 
 研究協力者
實成文彦  香川医科大学人間環境医学講座 衛生・公衆衛生学 教授
笠井新一郎 高知リハビリテーション学院 言語療法学科 教授
星 旦二  東京都立大学 都市研究所 助教授
武田則昭  香川医科大学人間環境医学講座 医療管理学 助教授
北窓隆子  香川医科大学人間環境医学講座 衛生・公衆衛生学 講師
須那 滋  香川医科大学人間環境医学講座 衛生・公衆衛生学 助手
合田恵子  香川医科大学人間環境医学講座 衛生・公衆衛生学 助手
星川洋一  香川医科大学人間環境医学講座 衛生・公衆衛生学 研究生
        香川県丸亀保健所 技師
井手宏明  香川医科大学人間環境医学講座 衛生・公衆衛生学 研究生
        香川県土庄保健所 技師
 
研究要旨:保健部署が連携の対象として医療、福祉の領域からどのような認識をされているかは重要な要素であり、また、有機的な連携を地域で構築するためには保健所機能の検討も重要である。今回、市町村役場福祉担当部署および地域の医師に対し、保健部署およびその他の機関との連携の現状と認識について調査を行い、また、市町村役場保健部署に対し保健所機能に関する現状と認識について調査した。
 1.福祉部署からみた保健、医療などへの連携状況は、保健領域に対しては、高齢者福祉以外では連携は十分ではなく、児童福祉では同じ自治体の母子保健事業との連携以外は十分ではなく、障害児者福祉領域ではいずれも不十分である。同じ自治体の保健部署は、良好に連携しているとした回答が多い。連携の成果として現れる住民への情報提供については、ある程度は機能しているが、総合的には提供できていない。保健部署との調査結果との比較では、各保健−福祉の境界領域の事業面では、連携状況の各回答割合がほぼ一致したが、同じ役場内の連携では、福祉部署の方が保健部署よりも連携がとれている(良好な)方向に認識している。情報提供については、保健部署の方が総合的、積極的な状況である。
 2.地域医療を担う医師の保健・福祉との連携について、現状では十分には連携をとられているとはいえないが、潜在的な意識は高い。回答全体を通じてみると、市町村保健担当部署の他、保健所についても期待があり、住民参加方法の確保については主体的参加を支持する結果であった。
 3.市町村援助に関する保健所機能については、総体としては保健所機能についての期待があった。調査研究面や情報機能については期待感も高く、連携の前提となる地域での基盤整備にかかわる保健所機能に対しては潜在的なニーズがあると思われ、保健活動の協働に対する期待感が高いことも示された。今後は保健所機能の中でも、企画調整や調査研究といった政策科学的な面を充実させてゆき、地域での包括的保健医療福祉の構築に対して重要な役割を担える実力を蓄えてゆくことが望まれる。
 
 
A.はじめに
 自治体の保健部署が、他の領域から連携の対象としてどのように認識され、実際に連携されているかは、地域での有機的な連携を構築するためには一つの課題である。また、市町村保健部署を始め、都道府県の地方機関として市町村の援助を行う保健所の種々の機能についての検討は、地域での保健、医療、福祉の連携構築に有用であると思われる。
 今回、当分担研究班では、市町村自治体の福祉部署担当者に調査を行い、保健を含む他の領域、関係機関との連携の現状認識についてたずね、また、医療関係者(医師)に地域保健、医療、福祉に関する現状と意識調査を行った。また、市町村援助に関する保健所機能に関する検討を行った。上記を総合して、若干の考察を含めて報告する。
 
B.研究方法
 保健サービスに関する連携の意識として、福祉行政サイド、医療サイド(医師会)の現状認識について調査した。また、自治体の保健行政に対する保健所の援助(保健所機能)の現状と展望を調査し、連携に関する検討を加えた。
 
1.福祉行政からみた保健・医療との連携の現状認識
 四国4県の全市町村自治体(徳島50、香川43、愛媛70、高知53)のうち、政令市保健所を設置している2市(松山市、高知市)をのぞく214自治体の福祉部局を対象に、郵送法によるアンケート調査にて行った。回答者は福祉主管部局の担当者にお願いし、各福祉領域(高齢者、障害、児童)担当者の意見のとりまとめを依頼した。質問項目は以下であるが、原則として福祉領域のうち高齢者、障害児者、児童の3つを別々にたずねている。
 
a.連携の現状について
1)高齢者福祉領域
 (1)保健行政分野が行っている老人保健対策との連携
 (2)保健所が行っている難病や精神保健(痴呆など)対策との連携
 (3)保健行政分野の「感染症対策担当係」との連携
 (4)医療機関との連携
 (5)福祉施設(特別養護老人ホーム、在宅介護支援センターなど)との連携
 
2)障害児者福祉領域
 (1)保健所が行っている難病対策や療育指導事業、家庭訪問との連携
 (2)保健所が行っている精神保健福祉対策との連携
 (3)市町村保健衛生担当部署、保健センターが行っている母子保健事業、子育て支援事業や健康相談、家庭訪問、発達相談事業などとの連携
 (4)教育委員会の行っている事業(教育相談、障害児教育の事業)との連携
 (5)医療機関との連携
 (6)障害児者教育・福祉施設(学校、入所、通所施設、作業所など)との連携
3)児童福祉領域
 (1)保健所が行っている母子保健事業、子育て支援事業や健康相談、家庭訪問、療育指導事業との連携
 (2)市町村保健衛生担当部署、保健センターが行っている母子保健事業、子育て支援事業や健康相談、家庭訪問、発達相談事業などとの連携
 (3)教育委員会の行っている事業(教育相談など)との連携
 (4)医療機関との連携
 (5)児童福祉施設(保育所など)との連携
 
b.同じ市町村役場内での連携
c.保健福祉情報収集・提供体制について
 1)提供できている情報
 2)情報収集システム
 
 調査時期は平成11年1月で、2月5日到着分までのものを集計した。137自治体(徳島29、香川35、愛媛48、高知25)より回答があり、回収率は64.0%であった。
 
2.医療からみた保健、福祉との連携に関する意識(實成ほか)
 香川県医師会所属医師1,730人から、香川県医師会名簿(平成10年7月1日現在)より、地域別に系統抽出し577人を調査対象とした。調査は無記名アンケート調査で、「保健・福祉サービスとの連携をふまえた診療連携に関する医療管理学的研究(分担 武田則昭)」とともに郵送法で行った。調査票の発送・回収は武田が行った。調査期間は1999年1月で回収数311、有効回答305、回収率は54.8%であった。質問内容は以下である。
1) 医療機関と保健福祉機関との連携の状況
 (1) 医療機関と保健福祉機関との連絡の 現状
 (2) 上記の連絡内容
 (3) 医療機関と保健福祉機関との連絡の 必要性
2) 医療・保健・福祉領域の情報機能
 (1) 提供してほしい情報
 (2) 情報をとりまとめて提供する機関
 (3) 情報をとりまとめて提供する職種
 (4) 医療情報の提供 a.個人情報 b.個人 情報以外
3) 医療と保健・福祉との連携体制
 (1) 連携のあり方
 (2) 住民参加確保方策
 
3.保健、福祉との連携に関連した保健所機能についての市町村担当者の意識と展望(福永ほか)
 「1.福祉行政からみた保健・医療との連携の現状認識」と同じ調査対象において、郵送法によるアンケート調査にて行った。回答者は保健担当部署では保健婦責任者、福祉担当部署では福祉主管部局の担当者にお願いした。保健所が連携のコーディネーターを担うという仮定にたち、連携実現の基盤となる保健所機能について、以下の項目についてたずねた。
 
a.保健所の市町村援助(支援)について
 1) 市町村保健行政に対する保健所の援助 の状況
 2) 市町村援助に関する保健所機能の現状 と今後
b.地域での保健所の役割に関する意見
 1) 保健所の情報センター機能
 2) 地域の保健計画の推進に関する役割
 3) 地域ぐるみの保健活動推進に関する役 割
 4) 地域全体からみた期待する保健所機能
 5) Evidence based public healthに関する保 健所などの役割
 
c.過去の調査結果との比較
 これらの保健所機能について、一部の項目で、同じく四国地域で過去(昭和61年11月及び平成2年11月)に行った調査結果と比較を試みた。
 
C.研究結果
1.福祉行政からみた保健・医療との連携の現状認識
 
a.連携の現状について
1)高齢者福祉領域
 福祉施設では「必要と感じ連携をとっている」と認識している市町村が多く(82%)、ついで、保健行政分野が行っている老人保健対策(69%)となっている。医療機関との連携では約半分であり(52%)、保健所の難病・精神保健(38%)や保健行政分野の感染症対策担当係(37%)では少ない。
 
2)障害児者福祉領域
 障害児者福祉領域ではいずれの対関係機関でも「必要と感じ連携をとっている」と認識している市町村は多くはない。市町村保健衛生担当部署、保健センターの母子保健事業(54%)が多い方であり、医療機関(37%)、保健所の精神保健福祉対策(36%)、保健所の難病対策や療育指導事業・家庭訪問(34%)、教育委員会の事業(28%)などは過半数に満たない。
 
(3)児童福祉領域
 児童福祉領域では保育所との連携で「必要と感じ連携をとっている」と認識している市町村が多く(692%)、ついで、市町村保健衛生担当部署、保健センターの母子保健事業(60%)となっている。保健所の母子保健事業(40%)、医療機関(34%)、教育委員会の事業(26%)は少ない。
 
b.同じ市町村役場内での連携
 高齢者福祉領域では、保健と福祉の課を統合している(以前より同一課である場合も含まれる)ところが3割あり、定期的に部署間の連絡会などを設けているとしているのが6割程度あり、同じ役場内での連携は十分にとれていると認識している。障害児者福祉、児童福祉では課を統合しているのは15%程度であり、7割程度が定期的に部署間の連絡会などを設けている。
 この数字からは、各福祉担当者は同じ役場内で十分な連携をとっているという認識が読みとれるが、今回、保健行政担当者(保健婦)への調査でも同様の質問をしており、その結果と比較すると、福祉担当者の回答では全くなかった「業務上の必要がある場合に必要な連絡をする」が老人保健(高齢者対策)、健康づくり領域では13.9%、難病・慢性疾患、障害児者保健福祉領域では31.4%、ほとんどなかった「平素より担当レベルでの連絡を図っている」も老人保健で16.8%、障害児者保健福祉で13.9%あり、3〜4割程度はシステム的な連携がとれているとは認識していないことから、同一役場での福祉担当者と保健担当者(保健婦責任者)との間に大きな認識のずれがある(保健部署の調査結果の詳細は、笠井班の研究報告に記しているので参照されたい)。
 
c.保健福祉情報収集・提供体制について
 1)提供できている情報
 高齢者福祉領域では、福祉の情報はもちろん保健・医療・教育領域の情報も把握し総合
的に提供できているとしたのは3割程度で、6割程度は担当で把握している福祉の情報は提供できているとした。障害児者福祉領域、児童福祉領域では担当で把握している福祉の情報は提供できているとしたのが多い。
 
 2)情報収集システム
 系統的なシステムがあるところはほとんどなく、問い合わせがあった時点で情報を集めるところが大多数であり、5割程度はその結果を記録集積している。
 
2.医療からみた保健、福祉との連携に関する意識(實成ほか)
 1)医療機関と保健福祉機関との連携の状況
 (1)医療機関と保健福祉機関との連絡の現状では、いずれも不定期連絡の割合が高いが、市町福祉課(市福祉事務所)、市町保健センター・市町役場保健衛生担当課は月1回以上がやや高い傾向にあり、市町村役場段階での連絡が多い。
 
 (2)上記の連絡内容では「患者についての依頼や連絡」の割合が高く、ほか「保健福祉の制度や公費負担関係」「医師会などの地域医療に関する業務としての行政・施設への連絡」が3割程度と高い。
 
 (3)医療機関と保健福祉機関との連絡の必要性に関しては、必要に応じて連絡するシステムが必要との意見が占める割合が高い。回答者の大部分は何らかのシステムが必要とする意見である。
 
2)医療・保健・福祉領域の情報機能
 (1)提供してほしい情報では、「患者に関する情報」が7割と高く、ついで、制度や事業、国・県からの関連情報が5割台を占めている。
 
 (2)情報をとりまとめて提供する機関としては、市町保健センター・市町役場保健衛生担当課が1位(33.1%)、2位(26.9%)で上位を占めており、ついで保健所、医師会あるいは地域内の特定の病医院の順である。身近な市町村役場の他、保健所への期待が見られる。設置する必要がないとする意見はごく少数である。
 
 (3)情報をとりまとめて提供する職種は、1位では医師、社会福祉士・ソーシャルワーカーであり、2位では保健婦を選んだ割合が高かった。
 
 (4)医療情報の提供
 個人情報に関して、提供の積極性については、「積極的」「どちらかと言えば積極的」で4割、「消極的」「どちらかというと消極的」で2割強、「どちらでもない」も2割強で、意見が分かれた。提供の条件としては、「プライバシー保護が確実」「患者の利益」が6割、「制度的に定められたもの」「倫理的な問題を生じない」が4割台と高かった。
 個人情報以外に関して、提供の積極性については、「積極的」「どちらかと言えば積極的」で4割、「消極的」「どちらかというと消極的」で2割弱、「どちらでもない」も2割強で、意見が分かれた。提供の条件としては、「プライバシー保護が確実」「患者の利益」が5割、「制度的に定められたもの」「倫理的な問題を生じない」が4割台であった。
 
3) 医療と保健・福祉との連携体制
 (1)連携のあり方
 連携のあり方では、1位では「保健と医療と福祉の部署を統合」が1/3を占め高かった。「協議する場を持ち話し合う」はそれについて26%であるが、2位でも3割と高かった。「特定の機関で調整を行う」は上記2つに次いで高い。
 
 (2)住民参加確保方策
 住民参加の方式としては、1位は「住民代表が集まり理想の姿を描き目標を定める」いわゆる「地域づくり型保健活動」の手法が29%を占め、このほかに「医師会など専門家集団が住民の意見を採り入れる」「行政機関が住民の意見を採り入れる」「協議会で住民組織の参加を得る」も高く、4分されたようである。2位を見ると「協議会で住民組織の参加を得る」が高い。
 
3.保健、福祉との連携に関連した保健所機能についての市町村担当者の意識と展望(福永ほか)
 
a.保健所の市町村援助(支援)について
 1) 市町村保健行政に対する保健所の援助の状況では「必要な援助を受けられている」「十分とはいえないが受けられている」としたのは半数未満で、あまり援助を受けられていない状況である。
 2) 市町村援助に関する保健所機能の現状と今後
 保健婦や栄養士の人的派遣、事業のノウハウの支援については現在では希望が高いが将来にわたって減少し、健診などの一次的事業の援助については、すでに現在でも非常に希望が少なく、将来的な展望としても少ない。
 統計・地区診断や市町村事業の評価については、現在も将来的にも「必要であり実施してほしい」は7割前後あり、期待されている役割である。そのほか、現在も将来的にも、市町村職員の研修、市町村の一次的事業の受け皿としての専門的事業、関係機関との連携調整、市町村保健計画の推進援助などが「必要性が少ない」とした割合が低いが、「必要であり実施してほしい」も必ずしも高い割合とはいえない結果である。地域の組織育成では意見が分かれる結果である。
 保健所職員との関わりでは、保健婦レベルでは定期的な連絡や意見交換が7割方の自治体であるが、他の職員では少ない結果であり、全くないとした自治体も約2割で、幹部職員間の連絡も少ない状況である。市町村援助に関する役割分担について、対人保健業務を明瞭に業務で分けた方がよいとしたのは4分の1にとどまっており、協働的援助(支援)の希望が高い結果である。援助スタンスについては、対等の協働的立場として関わってほしいとするのが約半数と多く、指導的立場での関わりを求めるのは3割で、必要と認めた場合のみ協力をお願いしたいとしたのは2割弱と低い。
 
b.地域での保健所の役割に関する意見
 1) 保健所の情報センター機能
 「保健所が地域での保健・医療・福祉に関する情報センターの役割を果たすべきか」ということについて、保健部署では、「そのとおりと思われるので積極的に取り組んでほしい」が7割と高かったが、福祉部署では、「そのとおりと思われるので積極的に取り組んでほしい」が5割であり、「保健所の役割とは思わない」が3割であった
 
 2) 地域の保健計画の推進に関する役割
 「保健所は地域の保健計画を積極的に推進する役割を担っている」という考えについては「そのとおりと思われるので積極的に取り組んでほしい」は5割にとどまり、「それほどの役割は担っていないと思う」が4割あり、意見が分かれるところである。
 
 3) 地域ぐるみの保健活動推進に関する役 割
 「保健所は地域ぐるみの保健活動を積極的に推進する役割を担っている」という考えについては、「そのとおりと思われるので積極的に取り組んでほしい」は5割強にとどまり、「それほどの役割は担っていないと思う」が4割弱で、期待感はあるが、必ずしも高いとはいえない結果である。
 
 4) 地域全体からみた期待する保健所機能
 地域保健全体から見た保健所機能への期待として、難病、精神保健福祉、伝染病・防疫対策と言った「保健所の専門的事業」業務への期待が高いが、地区診断、統計などの「企画調整、調査研究といった政策的な面での保健所機能」といった高次な政策的機能についても高い結果である。「市町村一次的業務に関する保健所の役割」はノウハウの支援を含めてあまり高くない。
 
 5) Evidence based public healthに関する保 健所などの役割
 エビデンスベースド・パブリックヘルス(実証に基づいた公衆衛生)への対応については、「保健所の援助を受けて対応」は2割弱、「市町村と保健所と大学・研究所などの専門機関との3者で協働」が65%と高く、この面での役割(市町村への援助、研究機関との連絡調整など)を求められている結果である。
 
c.過去の調査結果との比較
 著者らは昭和61年(1986、12年前)、平成2年(1990、8年前)にも一部の項目で同じ調査を行っているおり、今回の調査と過去の2回の調査の結果比較すると、保健所の情報センター機能に関しては、現在は12年前よりは機能の重要性が認識されている結果である。一方、保健計画の推進、地域ぐるみでの保健活動の推進に関しては、保健所の役割としての認識は低下している。
 
D.考察
 連携の現状については、障害児者福祉領域を除き、福祉施設や同一自治体の保健部署の事業とは比較的連携がとれているとの認識であるが、他の機関とはあまりとれていない現状である。これは高齢者福祉における老人福祉関連施設とか、児童福祉における保育所など普段の法的な業務上関連の深い施設ではとれているが、その他の領域ではとれていないことを示している。同じ自治体の保健部署との連携について、同時に実施した保健部署への調査結果と比較すると、老人保健と高齢者福祉対策、母子保健と障害児者福祉、母子保健と児童福祉と言う「領域」についてたずねた場合は、お互いに連携しているという認識の割合はほぼ同様の結果となっている(保健部署の調査結果の詳細は、笠井班の研究報告参照)。しかし、同一役場での福祉と保健(保健婦責任者)との「担当間」での連携についてたずねた場合は、大きな認識のずれがあり、多くは福祉部署の方が保健部署よりも連携がとれている(良好な)方向に認識していた。前者は主として施策面での認識、後者は日常業務での認識の差を反映しているものと思われる。
 障害児者領域では、保健や医療(教育を含め)との連携は不十分な状況といえる。障害児者福祉領域のこの結果は、主としてその形態が基準行政で、住民との接点が申請主義によって生じるものであり、比較的単独部署で業務が完結する性格を持っていることなどが影響していると思われる。しかし、障害児者保健・医療・福祉・教育は包括的に推進する必要があり、福祉担当部署はその最初の窓口となる場合も多く、申請を待つのみではなく、住民(当事者)の潜在的な需要を把握して、必要な連携を構築するなど、連携意識を向上させる必要があると思われる。
 情報収集・提供体制では、総合的に把握されていることは少なく、担当業務上扱っている情報が提供されていることが示され、収集システムも問い合わせのあった時点で情報を集めるところが大多数であるが、その内容を記録集積していないとしたところも多いなど、情報収集・提供体制では問題を有している。なお、「住民から見た連携の必要性に関する研究」班では、住民(障害当事者)のアンケート調査から、福祉行政担当者の情報提供について、不十分と感じている結果が得られている。住民から見える連携の成果の一つとして、たとえばどの窓口に聞いてもある程度のまとまった情報が得られるということがある。これは、たとえば総合相談窓口的なものを設けるという形態もあるが、一般には、他領域の情報も包括して、たとえば福祉の窓口に聞いても、保健や教育のこともある程度わかるといったようなことや、福祉や保健などの複数にわたる制度を系統的に情報提供するなどということが連携の成果として現れる。
 医療からみた保健、福祉との連携に関する意識からは、業務上や地域医療活動上、市町村役場段階とは連絡の機会がかなりあることがわかった。連絡に際しては何らかのシステムが必要との意見が多く、保健、医療、福祉の情報提供体制については市町村の保健部署への期待が高いほか、保健所への期待もみられる。連携のあり方については、保健と医療と福祉の場の統合、協議する場を持ち話し合うとした回答が多く、住民参加については、住民代表が集まり理想を描き目標を定めることをはじめ、協議会についても肯定的な意見が得られている。
 市町村援助に関する保健所機能では、今後の保健所機能としては、診療や保健指導などの現業的な面ではなく、政策的な面への期待が高い結果が得られたが、現状では必ずしも期待に応えられていないことを感じさせる結果である。過去の調査結果との比較では、12年前の昭和61年は老人保健法による保健事業が定着しつつある時期である。一方、平成2年はいずれの項目も飛び抜けて期待が高いが、法改正による老人保健福祉計画策定義務化や、地域保健医療計画の作成について通知が出された時期で、かつ四国地方においては「全国いきいき公衆衛生の会」や「四国公衆衛生医師の会」が、相次いで大規模な集会を開催し、四国四県の市町村保健婦などを多数集め、保健計画の必要性と推進にあたっての保健所との連携の重要性をアピールしていた時期にあたるので、これらの要因が影響していることが考えられる。この結果の解釈上、12年間の間で、市町村自治体が保健所に対して依存しなくともある程度保健活動が実施できるようになったのではないかという論点や、この8年間の「保健計画から地域保健法の流れ」の中で、保健所機能が十分に発揮されていたかどうかという論点に注意すべきと思われるが、情報機能については期待感が高まっている。保健所の情報機能は、保健所の企画調整機能や調査研究機能と密接な関係を持つものであり、今後の保健所の二次的機能としてのあり方を示すものといえよう。
 Evidence based public healthについては、市町村と保健所と大学など研究機関との3者協働を求める意見が多い。Evidence based public healthの対応は、かなり高度な疫学や政策科学の技術を要するので、現状では大学など研究機関が果たすべき役割が期待されるが、今後、大部分の地域では、保健所が3者の企画調整役として重要な役割を担うべきであろう。
 
E.結論
 1.福祉部署からみた保健、医療などへの連携状況は、保健領域に対しては、高齢者福祉では老人保健関連では連携をとっているが、他の関連施策では連携は十分ではなく、児童福祉では同じ自治体の母子保健事業との連携は良好であるが、他の関連施策では十分ではなく、障害児者福祉領域ではいずれも不十分である。医療、教育等の連携は福祉施設関連をのぞき、いずれの領域も十分ではない。同じ自治体の保健部署との連携では、良好であると認識している回答者が多い。
 
 2.連携の成果として現れる住民への情報提供については、ある程度は機能しているが、総合的には提供できていない状況である。
 
 3.保健部署との調査結果との比較では、各保健−福祉の境界領域の事業面では、連携状況の各回答割合がほぼ一致したが、同じ役場内の連携では、福祉部署の方が保健部署よりも連携がとれている(良好な)方向に認識していた。前者は主として施策面での認識、後者は日常業務での認識の差を反映しているものと思われる。情報提供については、保健部署の方が総合的、積極的な状況であった。
 
 4.地域医療を担う医師の保健・福祉との連携について、現状では十分には連携をとられているとはいえないが、潜在的な意識は高い結果であった。回答全体を通じてみると、市町村保健担当部署の他、保健所についても連携に対する役割を期待する意見がみうけられた。連携の参画方法についてはいくつかの考え方に分かれたが、住民参加の方法を確保することについては主体的参加に関して支持が得られる結果であった。
 
 5.市町村援助に関する保健所機能については、総体としては保健所機能についての期待はあるが、高いとまではいえない結果であった。しかし、調査研究面や情報機能については期待感も高く、連携の前提となる地域での基盤整備にかかわる保健所機能に対しては潜在的なニーズがあると思われ、保健活動の協働に対する期待感が高いことも示された。今後は保健所機能の中でも、企画調整や調査研究といった政策科学的な面を充実させてゆき、地域での包括的保健医療福祉の構築に対して重要な役割を担える実力を蓄えてゆくことが望まれる。
 
F.研究発表
 なし
 
G.知的所有権の取得状況
 なし